はじめに:感受性をさらに鍛えるためのテクニック
小説を読んでトリップするような経験をしたことはありますか?涙が止まらなくなったことは?怒りに体が震えたことは?読書好きなら一度はあると思います。
能動的にその体験を求めるのなら、どうすればそのような体験に浸れるのかについて学ぶとより捗ります。本書の訳者:柴田元幸大先生もこう言います。
小説の作者・読者のあいだで従来ある程度の共通理解事項となってきた技法上の概念や手段を知っておいて損はないことも、また確かだと思う。もちろん、そういう概念や手段ばかりに目が行くようになってしまえば「損でしかないが、一般には、健全な技術的知識は、同じテクストから読み取れる情報量を増やしてくれるはずである。要するに、小説をより面白く読めるようにしてくれる。
(訳者あとがきより)
もちろん書き手にとっても、歴史的名作を元に、ほぼ網羅的と言ってほど各種技法についてまとめらているので、手元においておいて損はありません。
- 作者: デイヴィッドロッジ,DaVid Lodge,柴田元幸,斎藤兆史
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1997/06
- メディア: 単行本
- 購入: 24人 クリック: 328回
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目次
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紹介されている技巧一覧
本書で取り上げられている手法一覧です。()内には、例文として引用されている作家が書いてあります。
- 書き出し(ジェイン・オースティン/フォード・マドックス・フォード)
- 作者の介入(ジョージ・エリオット/E・M・フォースター)
- サスペンス(トマス・ハーディ)
- ティーンエージ・スカース(J・D・サリンジャー)
- 書簡体小説(マイケル・フレイン)
- 視点(ヘンリー・ジェイムズ)
- ミステリー(ラドヤード・キプリング)
- 名前(デイビッド・ロッジ)
- 意識の流れ(ヴァージニア・ウルフ)
- 内的独白(ジェイムズ・ジョイス)
- 異化(シャーロット・ブロンテ)
- 場の間隔(マーティン・エイミス)
- リスト(F・スコット・フィツジェラルド)
- 人物紹介(クリストファー・イシャウッド)
- 驚き(ウィリアム・メイクピース・サッカレイ)
- 時間の移動(ミュリエル・スパーク)
- テクストの中の読者(ロレンス・スターン)
- 天気(ジェイン・オースティン/チャールズ・ディケンズ)
- 反復(アーネスト・ヘミングウェイ)
- 凝った文章(ウラジミール・ナポコフ)
- 間テクスト性(ジョセフ・コンラッド)
- 実験小説(ヘンリー・グリーン)
- コミック・ノベル(キングズリー・エイミス)
- マジック・リアリズム(ミラン・クンデラ)
- 表層にとどまる(マルカム・ブラッドベリ)
- 描写と語り(ヘンリー・フィールディング)
- 複数の声で語る(フェイ・ウェルドン)
- 過去の感覚(ジョン・ファウルズ)
- 未来を想像する(ジョージ・オーウェル)
- 象徴性(D・H・ロレンス)
- 寓話(サミュエル・バトラー)
- エピファニー(ジョン・アップダイク)
- 偶然(ヘンリー・ジェイムズ)
- 信用できない語り手(カズオ・イシグロ)
- 異国性(グレアム・グリーン)
- 章分け、その他(トバイアス・スモレット/ロレンス・スターン/サー・ウォルター・スコット/ジョージ・エリオット/ジェイムズ・ジョイス)
- 電話(イーヴリン・ウォー)
- シュルレアリスム(リオノーラ・キャリントン)
- アイロニー(アーノルド・ベネット)
- 動機づけ(ジョージ・エリオット)
- 持続感(ドナルド・バーセルミ)
- 言外の意味(ウィリアム・クーパー)
- 題名(ジョージ・ギッシング)
- 思想(アントニー・バージェス)
- ノンフィクション小説(トマス・カーライル)
- メタフィクション(ジョン・バース)
- 怪奇(エドガー・アラン・ポー)
- 物語構造(レナード・マイケルズ)
- アポリア(サミュエル・ベケット)
- 結末(ジェイン・オースティン/ウィリアム・ゴールディング)
どこから読んでも良いですが、基本的には前から読んでいけばいいかと思います。書き出しの章から始まり、結末の章で終わっていますので。
サリンジャーにジョイス、ヘミングウェイにクンデラ、まさに技巧の極みに手の届いた表現者たちのテクスト付なので、すっと理解できることでしょう。
柴田元幸の訳が素晴らしい
本当にいつもいつも安定の訳をしてくださっています。こんなテクニカルな、しかも、文学のテクニックについての本もがすらすらと理解できるのも、柴田大先生とそのチームのおかげです。
『マジックリアリズム』の章ではその解説だけで空を飛べるような心地よさを味わえたり、『アイロニー』の章では、文章に込められた何重もの皮肉を非常にうまくまとめています。日本語で違和感なく読み進められるというのは、翻訳モノを読む点で非常に大切にしたい点です。
余談ですが、私は昔から、読みたい小説がないときは、柴田元幸が訳した本をひたすら読むことに決めていました。自分の波長があう訳者に出会うことも、読む喜びを味わうひとつの方法だ、と記しておきたいと思います。
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