音数が少ないのにイメージがあふれ出すのは歌詞のおかげ
私は全てのエンターテインメントは、人間の感情を動かすためにあると思っています。『泣きたい』、『笑いたい』、『ムードを高めたい』のようなわかりやすい動機のものもあります。それに、『暇だから映画を見る』、『なんとなく音楽をつける』というようなことであっても、無→有の流れがそこに見えます。エンターテイメントは、人の心を動かすのです。
ならば、ド派手で煌びやかなものが、マス(大衆)には届きやすいわけです。なので、メインストリームのエンタメは、わかりやすくて、派手な演出を好みます。
一方、クリエイターの中にはそのような志向がないものもいます。職人気質だったり、予算の問題だったりなんだりで。
サンタラは、明らかに後者です。真っすぐに音楽を芸術として捉えているユニットです。
よく知らない人のために略歴をwikiから↓↓
作詞・作曲は、田村、砂田の共作名義が多い。メロディー、言葉の断片をキャッチボールしながら作っていく。セッション的な共作はほとんどない。
元古井戸加奈崎芳太郎は師匠。
田村は広島カープの大ファン。
田村は無類の酒好きで飲み始めると長い。砂田は付き合い程度。
田村はウエスタンブーツを愛用。「黒ジョニー」「赤ジョニー」と名前をつけている。
砂田は漫画、イラスト、似顔絵などをブログで公開。
砂田はカレーライスが好き。
「サンタラ」はインド料理店でアルバイトしていた砂田がインド人シェフより教えられた言葉から命名。
「フラッグ」は911アメリカ同時多発テロを歌ったもの。
「約束のワルツ」はこうの史代の夕凪の街 桜の国に捧げられたものである。
「W DIAMOND」は田村の敬愛する笑い飯に捧げられたものである。
サンタラ - Wikipedia
過剰な演出と、もれなく大衆を満足させるために、全てわかりやすく説明がなされる映画やTVドラマなどのエンタメは、カタルシス重視。アドレナリンが出るし、気持ちがとてもよくなります。
一方、小説などを読むときは、全てが読者次第。我々がどう解釈し、どう読むかが大切になってくるんですよね。サンタラの音楽を聴くとき、私たちは文学を味わっているかのような気持ちになります。それはきっと、音のスキマがたくさんあって、メッセージの解釈がこちら側にあるから。
この記事では、そんなサンタラの音楽について、歌詞を中心に語ります!おすすめ8曲あり。
目次
バニラ
バニラ
サンタラ
2013/06/19 ¥200
彼女たちの存在を世に知らしめた一曲を紹介しないわけにはいかないでしょう。全国のFMでパワープレイされたヒット曲ですが、私もこの曲は超、超、超超超ヘビロテしました。
田村キョウコの歌唱がとても豊かな表現を持っています。ライブはもっといいよ。ディーヴァ達みたいに声量が果てなく続くわけじゃないんだけど、すごい存在感がある。
まずは入門的にこれは必ず聞いておくべき。
卒業
卒業
サンタラ
2007/09/26 ¥250
サンタラの初期は青春モノが多いんですが、非常にアタリが多い。青春文学が好きなら絶対に聞くべき。
なんだろう、サリンジャーとかポールオースターとか、ジョンアーヴィングとか(もちろんマークトウェインだとかも)、そのあたりの有名どころのアメリカ文学が好き、もしくは柴田元幸が翻訳する文学が好きな人とかなら絶対ハマる。
この曲の歌詞は、意外とストレートに来てて文学っぽくは仕上がってはいないんですが、曲を聞くたびに私はムーンパレス(オースター)とか、フラニーとゾーイー(サリンジャー)小説を読み返したくたくなるんだよなぁ。
青春スイッチを押してくれる作品です。
フラッグ
フラッグ
サンタラ
2008/01/16 ¥250
”手の平に昨日落ちた星が 小さな痛みと残した跡は長く長く待たされた末に来る幸福の印だ ほの暗い蛍光灯の光が 容赦なく現実を計算するそれなら人肌の夕立へ裸足で駆けてゆく 最近の君はどんな気持ち? 遠い西の空で何をしてる? あと死ぬまで何度君に会えるんだろう”
もう、こういうのが詩っていうんですよね。
たとえば某グループのプロデュースを仕切っている秋元なんちゃらが作詞云々を語ったりすることがありますが、ホント反吐が出ます。描写が全然ないんですよ彼の歌詞は。頭の中の妄想を書いて終了、みたいなね。
けれど、サンタラの歌詞は違います。(たとえそれがファンタジーだとしても)言葉が私たちの心にイメージを確かに浮かべて、感情に結び付けてくれるんですよね。もちろんメロディーラインも極上。
何者でもなかった昔々、苦しかった時代に聞いて何度救われたことか。
終盤の”泣いてない振りすんのさ”まで聞き終わったころには、涙が頬を伝っているはず。
サークル
サークル
サンタラ
2008/01/16 ¥250
砂田のギターが炸裂する一曲。
リフもいいんだけど、高音でコーラスしてくるオカズをずーっと聞いていたいんだよなぁ。全く落ち着かないでチロチロと弧を描いて私たちに纏わりついてくる鳥みたいな音がする。
砂田がコーラスで入ってくるんですよ。これはいいですよ。静寂の夜の中聞きたい1曲。
サイモンの季節
サイモンの季節
サンタラ
2008/01/16 ¥250
サンタラの歌詞は変幻自在ではありますが、一つのパターンとして、失われたものへの憧憬があります。この曲はまさに青春の温かい回顧の眼差しが溢れています。
”きっと誰かが笑いとばすだろう きっと私もそれに応えるだろう”
この1フレーズだけで、一瞬で学生時代のバカ話の空気が感じられませんか?
”sun and moon silver and gold real and romance 何もかもが彼女達の日々の全て loves and hates jokes and lies lucks and troubles”
並べられたワードの空気は、ポールオースターの小説を読んでるみたいに、イメージを次々と想起させて消えてきます。
これだから青春モノは止められないんだよなぁ。
会いたい時に君はいない
会いたい時に君はいない
サンタラ
2011/03/30 ¥200
2011年のアルバム”愛しのTRICKSTER”収録。
この曲なんかはJ-POP世界で堂々と戦えるはずの1曲なんですよね。ポップに、そして失恋モノとして聞くことができるので、売り出せば売れる、そんな渾身の一曲ではあります。
ただ、これ以降あたりからはサンタラのお二人はもはや職人気質になっていっておりまして、メインストリームからは距離を取りはじめるんですよね。
ま、サンタラファンは誰もサンタラがメインストリームど真ん中で売れて欲しいなんて思ってはないですが。
Perfect Happiness
Perfect Happiness
サンタラ
2014/06/04 ¥250
『完璧な幸福』壮大なタイトルですが、スケールも大きいです。
後半の歌詞の視点に注目↓↓
”真冬の朝のコーヒーとミルクと新聞の香り
覚えたばかりの花の名前 その色
フェンス越しの校舎 小さな制服の群れ
夜道を彩るネオン グラスとグラスの触れ合う音
スタジアム揺らす大歓声とボールが描く放物線
昔々の英雄のストーリー 歌い継がれる恋のメロディ
遥か上空から見たこの国の形”
段々と宇宙へ向かっていくんですよね。身近な幸福=個人的が、宇宙へと飛んでいき、普遍化される。
湖上
2016年のアルバム”Moon in a Bottle”は、中原中也にインスパイアされて集まった
夜の詩と詞を楽しむコンセプトアルバムなのですが、『湖上』に歌を乗せているんですよ。これはまぁ、ホント通好みというか、ニッチなところをひたすら行くなぁ、と。
”ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。”
聞かないとわからないんですが、聞けばめちゃくちゃいいです。永遠っていう瞬間があるとしたら、空想の中で自然と同化する瞬間なんだと思うんですが、そんな一瞬が味わえそうな一曲。
おわりに
この記事を書くにあたって、きちんとサンタラを聞き返しましたが、本当に染みるなぁ。こういう気持ちを忘れないように、老いていきたい。死んでいきたい。
いつまでも瑞々しい感性を持っていられますように。
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