はじめに:サリンジャーってどんな人?
アメリカ青春文学の永遠の名著として、未だに売れ続けている『キャッチャーインザライ』 (ライ麦畑でつかまえて)の著者です。マンハッタン生まれです。
若くして文壇デビューをし、『キャッチャーインザライ』は、全世界で6,000万部を売り上げることになります。しかし、大ヒットの成功で静かに暮らすということが難しくなり、田舎に移り住むのですが、そこでも裏切りのような事件が起ってしまいます。
それからますます世捨て人のような生活をしてしまい、結局生涯に数冊を出版したのみで、優れた作家で、熱狂的なファンも多いのに、読める作品はとても限られています。
あんま知らないって人のために略歴をwikiから↓↓
略歴(詳しめに)
1941年に『マディソン街のはずれの小さな反抗』 が『ザ・ニューヨーカー』に掲載が決まるが太平洋戦争の開戦による影響で作品の掲載は無期延期となってしまう(結局5年後の1946年に掲載される)。ちなみにこの短編は、作家の分身とでもいうべきホールデン・コールフィールドが初めて登場した作品である。
1944年3月英国に派遣され6月にノルマンディー上陸作戦に一兵士として参加し激戦地の一つユタ・ビーチに上陸する。フランスでは情報部隊に所属する。8月、パリの解放後新聞特派員としてパリを訪れたアーネスト・ヘミングウェイを訪問する。『最後の休暇の最後の日』 (The Last Day of the Furlough) を読んだヘミングウェイはその才能を認めて賞賛したという。しかしヘミングウェイのタフな精神とは相容れなかったようである(『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンの台詞を参照)。
しかしドイツとの激しい戦闘によって精神的に追い込まれていき、ドイツ降伏後は神経衰弱と診断され、ニュルンベルクの陸軍総合病院に入院する。1955年にラドクリフ大学に在学中のクレア・ダグラスと結婚。一男一女を儲けるが、1967年に離婚。次第に発表する作品数を減らしていく。1953年に『バナナフィッシュにうってつけの日』をはじめとする短編集『ナイン・ストーリーズ』を、1961年には『フラニーとゾーイー』を、1965年に『大工よ、屋根の梁を高く上げよ』を発表するが、1965年に『ハプワース16、1924年』を発表したのを最後に1冊の新刊も発表することはなかった。
晩年は滅多に人前に出ることもなく、2メートルの塀で屋敷の回りを囲ませその中で生活をしていた。サリンジャーには世捨て人のイメージがつきまとうようになり、一度小説を書き始めると何時間も仕事に没頭し続けており、何冊もの作品を書き上げている、など様々な噂がなされた。実際にはサリンジャーは、町で「ジェリー」と呼ばれて親しまれ、子供たちとも話をし、毎週土曜に教会の夕食会に参加するなど、地域に溶け込んで暮らしていたという。住民の間では私生活を口外しないことが暗黙の了解だった。
1985年、作家・評論家のイアン・ハミルトンが、テキサス大学でサリンジャーの書簡多数を発見し、これを元に伝記を書いたが、校正刷りの段階でサリンジャーがこれに異議を申し立て、ハミルトンは二度書き直したものの、サリンジャーはニューヨークの法廷に姿を現し、一審でハミルトン側が勝ったが、二審で覆り、ハミルトンはサリンジャーの書簡を引用しない版(『サリンジャーをつかまえて』海保眞夫訳)を刊行した(サリンジャー事件)。
『ライ麦畑でつかまえて』の続編であるという『60 Years Later:Coming Through the Rye』がスウェーデンの出版社Nicotextから出版されると知り、その著者であるJ・D・カリフォルニアなる人物と Nicotext とを相手取り、2009年6月1日に著作権侵害で提訴した。訴状は「続編はパロディではないし、原作に論評を加えたり、批評したりするものでもない。ただ不当な作品にすぎない」として、出版の差し止めを求めた。
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5位 ハプワース16、一九二四
グラス家物語の第5作として、1965年に『ニューヨーカー』誌に発表された本作品を最後に著者は長い沈黙を守ったままである。シーモアの手紙という形式をとり、饒舌体で語る神秘的・宗教的な見解とか、超現実的な出来事、しかもこの筆者が実は7際の子供であることを知って読者は異常な感じを抱くかもしれない。しかし本編をグラス家年代記の一環として読む時、シーモアのこれまで知られなかった側面や「バナナフィッシュに最良のの日」の読み方などに新しい証明をあてるものである。
(本書解説より)
すごく奇妙な小説です。サリンジャーの病んだ心、怨念が湧きだしてくるような物語です。
文章は相変わらずめちゃくちゃ上手い。天才ですね。
で、この作品を含む短編集が2018年6月に新訳として出るんですな。”このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年”
なんというか、非常にグレーな形で出版される感じではありますが。サリンジャーは非常に版権というか、自分の作品へのレグレーションが厳しくて、(恐らく納得したものしか世に出したくないのだと思いますが)ほとんどの作品が読めないんですが、本作はひっそりと発売されます。
4位 大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章
画一化された価値観を強いる現代アメリカ社会にあって、繊細な感受性と鋭敏な洞察力をもって個性的に生きようとするグラース家の七人兄妹たち。彼らの精神的支柱である長兄シーモアは、卑俗な現実を嫌悪し、そこから飛翔しようと苦悶する―。ついに本人不在のまま終った彼の結婚式の経緯と、その後の自殺の真因を、弟バディが愛と崇拝をこめて必死に探ってゆく…。
個人的には『バナナフィッシュにうってつけの日』に通じる道を新たに照らすために書かれたのじゃないかと思います。シーモアこそが天才一家のやっぱり完全体であって、完全であるが故の人生の結末を照らしたいんだろうなと。
家族を描くというのはかなり多面的なものが描けるので、小説家としては欠かせないテーマになりうると思います。
サリンジャーもきっともっと大きくて深くて入り組んだ世界観を構築していきたかったんだろうなと。
ただ、展開としては正直言って、かなりアクロバティックな展開を見せていて、実験的なまでに脱線や逸脱を繰り返すので少し読みづらいです。なんにせよ、早熟天才児たちが集まったグラース一家を知るには必読の一冊。
3位 ナイン・ストーリーズ
バナナがどっさり入っているバナナ穴に行儀よく泳いでいき、中に入ると豚みたいにバナナを食べ散らかすバナナフィッシュ。あんまりバナナを食べ過ぎて、バナナ穴から出られなくなりバナナ熱にかかって死んでしまうバナナフィッシュ……グラース家の長兄の謎に迫る『バナナフィッシュにうってつけの日』ほか、九つの傑作からなる自選短篇集。
攻殻機動隊にも影響を与えているであろう『笑い男』 も収録されています。
バナナフィッシュにうってつけの日は、 円城塔”バナナ剥きには最適の日々”だとか、色んな形でオマージュされています。
こういう短編は平日の夜とかに読んじゃうととっても危ないです。ダークサイドに落とされて、次の日の平日が超辛くなるかも笑
2位 ライ麦畑でつかまえて
インチキ野郎は大嫌い! おとなの儀礼的な処世術やまやかしに反発し、虚栄と悪の華に飾られた巨大な人工都市ニューヨークの街を、たったひとりでさまよいつづける16歳の少年の目に映じたものは何か? 病める高度文明社会への辛辣な批判を秘めて若い世代の共感を呼ぶ永遠のベストセラー。
青春小説の決定版ですね。何度も読み返しましたし、英語版のペーパーバックでも読みました。『ティーンネイジ・スカース』と呼ばれる技法を使いこなすサリンジャーのレベルの高さは本当に異次元ですね。
読む人によっては戦争小説だ、と言ったり、風変わりな恋愛小説だ、なんていう意見もあります。とにかくどんな形かは予測不明ですが、読み手の心に刺さりまくること請け合いです。
野崎訳が個人的にはやっぱりオススメなのですが、少し時代とともに古びていってしまうのは否めないので、村上訳もありかと思います。
1位 フラニーとゾーイー
アメリカ東部の小さな大学町、エゴとスノッブのはびこる周囲の状況に耐えきれず、病的なまでに鋭敏になっているフラニー。傷心の彼女に理解を示しつつも、生きる喜びと人間的なつながりを回復させようと、さまざまな説得を試みる兄ゾーイー。
しゃれた会話の中に心の微妙なふるえを的確に写しとって、青春の懊悩と焦燥をあざやかにえぐり出し、若者の感受性を代弁する連作二編。
『ゾーイー』が名作中の名作。どこを読んでも新たな発見があり、若かった時の心が蘇る気持ちがします。『言葉の曲芸飛行家』たちの絶妙なトークがむちゃくちゃ気持ち良い!
その中でも特に凄まじく良いのが、終盤のゾーイーとフラニーとの会話。この先私は何百回も読み続けるだろう会話。ゾーイーの演説、それを聞くフラニー、そして、『ふとっちょのおばさま』。完璧な文章は存在しない、村上春樹は『風の歌を聴け』でそう書きましたが、私にとっては『ゾーイー』の終盤は完璧な文章です。
サリンジャーの新作がもうすぐ読めるはず!
In an oral biography titled Salinger, authors David Shields and Shane Salerno assert that the author had left specific instructions authorizing a timetable, to start between 2015 and 2020, for the release of several unpublished works.
According to the authors and their sources, these include five new Glass-family stories; a novel based on Salinger's relationship with his first wife, Sylvia; a novella in the form of a WWII counterintelligence officer’s diary; a "manual" of stories about Vedanta; and other new or retooled stories that illuminate the life of Holden Caulfield.
US版のwilipediaを見ると、彼の遺した遺書のなかで、詳しく遺作について世に出す指示があったようです。Newyork Times にも似たような記事がいくつかあるので恐らく正しいものだと思われますね!胸熱!!
下記の作品群が出版されるとされています。
- The Last and Best of the Peter Pans
- The Complete Chronicle of the Glass Family
- A World War Ⅱ Love Story
- A Religious Manual
- A Counterintelligence Agent's Diary」
『ライ麦畑でつかまえて』の主人公ホールデン・コールフィールドが登場する物語、シーモア・グラースに関する5つの短編集、及びサリンジャー自身が戦争直後にナチス協力者の女性シルヴィアと送った短い結婚生活の話や、ヒンドゥー教信奉の話、第二次世界大戦中、捕虜がスパイでないかを尋問する防諜部隊にいた経験に基づく話などのようですね。
楽しみ過ぎます。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
まだ読んでない人は是非読んでみてください。過去に読んだ人も、遺作の出版前に復習してみるのもよいかもしれません。
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