はじめに:変幻自在の文章を操る文豪
筒井康隆の主戦場とするのはどのジャンルでしょうか。やっぱりSF?はたまた純文学?ハードボイルド小説もしくはライトノベル、はたまたメタフィクションにごちゃまぜ何でもありの前衛小説や実験小説?
たくさんのジャンルにまたがって相当な数の本を読んで、吸収して、自らの小説に取り入れているんですね。そのあたりは業界内外から大絶賛されているエッセイにも書かれています。
【過去記事】
時には読者に求めるレベルも高く、普通の読者を置いてけぼりにする実験的な作品もあるのですが、色んな方法で読者をとにかく惹きつけるのが上手い。そんな変幻自在の魅力を持つ筒井康隆のおすすめ小説をジャンルをまたいで紹介していきます。
長いです。笑
目次
略歴・受賞歴
名前は聞いたことがあるけれど、どんな人かよく知らない、という人向けに略歴と受賞歴を。
日本の小説家・劇作家・俳優である。ホリプロ所属。身長166cm。小松左京、星新一と並んで「SF御三家」とも称される。パロディやスラップスティックな笑いを得意とし、初期にはナンセンスなSF作品を多数発表。1970年代よりメタフィクションの手法を用いた前衛的な作品が増え、エンターテインメントや純文学といった境界を越える実験作を多数発表している。
戦国時代の武将筒井順慶と同姓であり、その子孫であるとの設定で小説「筒井順慶」を書いている。先祖は筒井順慶家の足軽だったらしい、と筒井は述べている。父は草分け期の日本の動物生態学者で、大阪市立自然史博物館の初代館長筒井嘉隆。息子は画家筒井伸輔。1970年(昭和45年) - 『霊長類南へ』で第1回星雲賞(日本長編部門)、『フル・ネルソン』で同賞(日本短編部門)受賞。
1971年(昭和46年) - 『ビタミン』で第2回星雲賞(日本短編部門)受賞。
1974年(昭和49年) - 『日本以外全部沈没』で第5回星雲賞(日本短編部門)受賞。
1975年(昭和50年) - 『おれの血は他人の血』で第6回星雲賞(日本長編部門)受賞。
1976年(昭和51年) - 『七瀬ふたたび』で第7回星雲賞(日本長編部門)、『スタア』で同賞(映画演劇部門)受賞。
1977年(昭和52年) - 『メタモルフォセス群島』で第8回星雲賞(日本短編部門)受賞。
1981年(昭和56年) - 『虚人たち』で第9回泉鏡花文学賞受賞。
1987年(昭和62年) - 『夢の木坂分岐点』で第23回谷崎潤一郎賞受賞。
1989年(平成元年) - 『ヨッパ谷への降下』で第16回川端康成文学賞受賞。
1990年(平成2年) - ダイヤモンド・パーソナリティー賞受賞。
1991年(平成3年) - 日本文化デザイン賞受賞。
1992年(平成4年) - 『朝のガスパール』で第12回日本SF大賞受賞。
1997年(平成9年) - 神戸市名誉市民勲章受章。フランス・芸術文化勲章シュバリエ章叙勲。フランス・パゾリーニ賞を受賞。
1999年(平成11年) - 『わたしのグランパ』で第51回読売文学賞受賞。
2002年(平成14年) - 紫綬褒章受章。
2010年(平成22年) - 第58回菊池寛賞受賞。
それでは早速おすすめ作品どうぞ!
時をかける少女
放課後の誰もいない理科実験室でガラスの割れる音がした。壊れた試験管の液体からただようあまい香り。この匂いをわたしは知っている──そう感じたとき、芳山和子は不意に意識を失い床に倒れてしまった。
そして……目を覚ました和子の周囲では、時間と記憶をめぐる奇妙な事件が次々に起こり始める。思春期の少女が体験した不思議な世界と、あまく切ない想い。わたしたちの胸をときめかせる永遠の物語もまた時を超え、未来へと引き継がれる。
まずはド定番から。映画化もされ、もはや古典と言っても良いSFの名作。
筒井康隆は、芸術家は何であれ、自らの作品が省略形の愛称を持たれると、もはや傑作・マスターピースの仲間入りだ、と言っていますが、本作は『時かけ』と呼ばれていて、その仲間入りを果たしています。
パプリカ
同名アニメ映画の原作。精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者・サイコセラピスト。だが、彼女にはもうひとつの秘密の顔があった。他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢探偵パプリカ。人格の破壊も可能なほど強力な最新型精神治療テクノロジー「DCミニ」をめぐる争奪戦が刻一刻とテンションを増し、現実と夢が極限まで交錯したその瞬間、物語世界は驚愕の未体験ゾーンに突入する!
こちらも映画化がされている有名作。
夢に見たことを書き留めて、それを小説にしていくうちに、夢の世界がどんどん崩壊していく様子を味わったとテレビで言っていましたが、そんな感覚に陥ってしまします。
攻殻機動隊の世界観が好きな人は絶対にハマリます。保証します。
【過去記事】
わたしのグランパ
中学生の珠子は、両親と祖母の4人暮らし。だが、周囲の話を聞くと、どうも祖父がいるらしい。ある日、珠子の前に、突然現れたグランパ(祖父)はなんと刑務所帰りだった。
出所を聞いて、祖母はわれ先にと逃げ出したが、一緒に暮らしてみると、侠気(おとこぎ)あふれるグランパは、町の人からは慕われ、珠子や家族をめぐる問題を次々と解決してくれる。そしてグランパの秘密を知った珠子に大事件が襲いかかる。「時をかける少女」以来、待望のジュブナイル。読売文学賞受賞作。
かっこいい老人って、本当に魅力的なキャラクターですよね。
そして本作はすごく読みやすく作られていて、読書の苦手な方でもどんどん入り込んでいける初心者向けの名作です。
個人的には『グラン・トリノ』のクリント・イーストウッド の姿が浮かびます。全然世界観は違いますけど。
家族八景
幸か不幸か生まれながらのテレパシーをもって、目の前の人の心をすべて読みとってしまう可愛いお手伝いさんの七瀬――彼女は転々として移り住む八軒の住人の心にふと忍び寄ってマイホームの虚偽を抉り出す。人間心理の深層に容赦なく光を当て、平凡な日常生活を営む小市民の猥雑な心の裏面を、コミカルな筆致で、ペーソスにまで昇華させた、恐ろしくも哀しい短編集。
七瀬シリーズの第一作的作品。全三部作。直木賞を逃し、これ以降は筒井康隆が文豪としての地位を固めていったり、今更感もあって、ノミネートもしなくなりました。直木賞をめぐった文壇との軋轢に関しては別の作品のところで紹介します。
かなり昔にドラマ化もされました。
ロートレック荘事件
夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘たちが集まった。ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかに見えたのだが…。二発の銃声が惨劇の始まりを告げた。一人また一人、美女が殺される。邸内の人間の犯行か?アリバイを持たぬ者は?動機は?推理小説史上初のトリックが読者を迷宮へと誘う。前人未到のメタ・ミステリー。
https://www.amazon.co.jp/dp/4101171335
序盤~中盤に関しては、実に普通におもしろい小説。あれ、筒井康隆も手を抜くことがあるんだなーぐらいの、普通のおもしろさ。ええ、筒井康隆は想像を絶するおもしろさが売りですから。
でも全部最後でひっくり返るのでご安心を。流石です。
にぎやかな未来
退屈したおれはFM放送を聞くことにした。ところが演奏の合い間三十秒毎にCMが入る有様。CMがうるさいとラジオのスイッチを切ると罰するという法律が制定されたからたまらない!(星 新一)
https://www.amazon.co.jp/dp/4041305039
星新一の書評って珍しい気がするのは私だけ?ショートショートとか、短編の古典クラスタの人にはお馴染みなのかしら?
”おれ”ってのがいいんだよなぁ。
日本以外全部沈没
地球規模の地殻変動で、日本を除くほとんどの陸地が海没してしまった。各国の大物政治家はあの手この手で領土をねだり、邦画出演を狙うハリウッドスターは必死で日本語を学ぶ。生き残りをかけた世界のセレブに媚びを売られ、すっかり舞い上がってしまった日本と日本人だが…。痛烈なアイロニーが我々の国家観を吹き飛ばす笑撃の表題作(登場人物解説付)ほか、新発掘短篇「黄金の家」も収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B00SAO2E7A
”日本沈没”を読んでから読みたいのがこの日本以外全部沈没。
筒井康隆はやっぱり反骨心だったり、ロックな心意気に溢れているからいいんだよなぁ。
陰悩録 リビドー短篇集
タマタマが風呂の排水口に吸い込まれたら、突然家に現れた弁天さまに迫られたら、ませた女子中学生に性教育を行なったら。その結末は…とてもここには書けません。男と女、男と神様、時には男と機械の間ですら交される、無限の可能性と歓喜に満ち、嫌らしくも面白おかしく、しかも滑稽にして神聖で、猥褒だが奥床しい行為。人間の過剰な「性」を描く悲喜劇の数々。新発掘短篇「睡魔の夏」も収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/404130525X
テーマ的にはばかばかしくてたまらないんですが、細かいテクニックがめちゃくちゃあるのがおもしろい。
作品によってしっかりと文体や表現を練っているのは本当に熟練の職人なんだよなぁ。センス×経験でものすごいことになっている。
文学部唯野教授
これは究極のパロディか,抱腹絶倒のメタフィクションか! 大学に内緒で小説を発表している唯野先生は,グロテスクな日常を乗り切りながら,講義では印象批評からポスト構造主義まで壮観な文学理論を展開して行くのであったが….「大学」と「文学」という2つの制度=権力と渡り合った,爆笑と驚愕のスーパー話題騒然小説.
https://www.amazon.co.jp/dp/B00QT9XDHS
もうね、これを天才が描いた、書いた小説とせずして何というか。すごくわかりやすくてかみ砕かれているんだけれども、描かれていることはすごく交渉で奥の深いことなんです。こんな芸当ができるのは本当に筒井康隆ぐらいじゃないかな?
世に誇るべき狂人的天才。
七瀬ふたたび
生まれながらに人の心を読むことができる超能力者、美しきテレパス火田七瀬は、人に超能力者だと悟られるのを恐れて、お手伝いの仕事をやめ、旅に出る。その夜汽車の中で、生まれてはじめて同じテレパシーの能力を持った子供ノリオと出会う。
その後、次々と異なる超能力の持ち主とめぐり会った七瀬は、彼らと共に、超能力者を抹殺しようとたくらむ暗黒組織と壮絶なバトルを繰り広げる!
七瀬三部作の第二作。
心理を描くドラマだった前作とうってかわって、超能力バトルというSF的世界観を構築しています。描写力は凄まじいです。描き分けの幅が本当に広いです。
エディプスの恋人
ある日、少年の頭上でボールが割れた。音もなく、粉ごなになって。――それが異常の始まりだった。強い“意志”の力に守られた少年の周囲に次々と不思議が起こる。その謎を解明しようとした美しきテレパス七瀬は、いつしか少年と愛しあっていた。初めての恋に我を忘れた七瀬は、やがて自分も、“意志”の力に導かれていることに気づく。全宇宙を支配する母なる“意志”とは何か? 『家族八景』『七瀬ふたたび』につづく美貌のテレパス・火田七瀬シリーズ三部作の完結編。
七瀬三部作の第三作。一応完結編です。
何故三作目が存在しうるのか、前作との関係性はどうなっているのか。筒井康隆は見事にSF小説の枠組み、そのものを使って表現しきります。
小説そのものを読者とのコミュニケーションツールとして使っているかのようです。
三作順番に読んでください。
虚航船団
鼬族の惑星クォールの刑紀999年6月3日、国籍不明の2基の核弾頭ミサイルによって国際都市ククモが攻撃され、翌4日、無数の小型単座戦闘艇に乗ったオオカマキリを従えた文房具の殺戮部隊が天空から飛来した。それはジャコウネコのスリカタ姉妹の大予言どおりの出来事だった―。宇宙と歴史のすべてを呑み込んだ超虚構の黙示録的世界。鬼才が放つ世紀末への戦慄のメッセージ。
筒井康隆が純文学を書くとこうなるのか、と。
純文学というか、前衛的な実験小説というか、ナンセンスなマジックリアリズムというか。どことなくラテン文学の匂いがします。そういう類のものが好きな人には好評でしょうが、従来の作品が好きだったファンには裏切られたと感じる人もいたみたいですね。
尖った作品が好きな人におすすめです。
旅のラゴス
北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か?異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。
みんな大好き旅のラゴス。
良くも悪くも万人受けする作品になっています。読後には『何か大切なモノが、自分の中にだってまだ残ってあるのだ』、という感覚が得られると思います。
朝のガスパール
コンピューター・ゲーム『まぼろしの遊撃隊』に熱中する金剛商事常務貴野原の美貌の妻聡子は株の投資に失敗し、夫の全財産を抵当に、巨額の負債を作っていた。窮地の聡子を救うため、なんと“まぼろしの遊撃隊”がやってきた!
かくして債務取立代行のヤクザ達と兵士達の銃撃戦が始まる。虚構の壁を超越し、無限の物語空間を達成し得たメタ・フィクションの金字塔。日本SF大賞受賞。
朝日新聞への連載小説で、読者が投書やBBSに投稿し、それを小説に反映させるというかなり尖った実験小説です。
小説内に作者自身などが登場しだすなど、メタ的な展開があり、また表現の幅を拡大しました。
BBS今で言う荒らし、炎上も発生していたということです。現在では当たり前でしたが、それを1991年に既に行っていたという。。。どんだけ前衛的だったのかという感じですね。
ビアンカ・オーバースタディ
ウニの生殖の研究をする超絶美少女・ビアンカ北町。彼女の放課後(オーバースタディ)は、ちょっと危険な生物学の実験研究にのめりこむ、生物研究部員。そんな彼女の前に突然、「未来人」が現れて--!
冒頭数ページを読むだけで従来の筒井ファンには筒井康隆のいやらしさ、意地悪さ(褒めている)がギンギンに伝わってくると思います。あんなに稚拙な文章を書くなんて悪意ありすぎ。笑
毒のある文章、文体というのは、文学の歴史を土台にして生まれるのだということがわかる一冊。
おれに関する噂
テレビのニュース・アナが、だしぬけにおれのことを喋りはじめた――「森下ツトムさんは今日、タイピストをお茶に誘いましたが、ことわられてしまいました」。続いて、新聞が、週刊誌が、おれの噂を書きたてる。
なぜ、平凡なサラリーマンであるおれのことを、マスコミはさわぎたてるのか? 黒い笑いと恐怖にみちた表題作、ほか『怪奇たたみ男』など、あなたを狂気の世界に誘う11編。
筒井康隆の短編集はさくっと読める割に毒が効いてて満足感があります。
Kindleでも読める今作はおすすめです。
くたばれPTA
マスコミ、主婦連、PTAから極悪非道の大悪人と烙印を押されたSFマンガ家のとる道は?「くたばれPTA」。一卵性双生児の弟が、自分の恋人を奪った兄に奇想天外な方法で復讐する「かゆみの限界」。夜ごと10億の男たちと交わる処女「20000トンの精液」。ほかに「ナポレオン対チャイコフスキー世紀の決戦」「女権国家の繁栄と崩壊」など、文庫初収録の短編、ショート・ショート全24編。
こちらは前述の『おれに関する噂』よりもサクサク読めるショート・シート集
題名がめちゃくちゃ良いですよね。くたばれPTA。
モナドの領域
河川敷で発見された片腕はバラバラ事件の発端と思われた。美貌の警部、不穏なベーカリー、老教授の奇矯な振舞い、錯綜する捜査……。だが、事件はあらゆる予見を越え、やがてGODが人類と世界の秘密を語り始める――。巨匠が小説的技倆と哲学的思索の全てを注ぎ込んだ超弩級小説。
高齢の筒井康隆が紡いだ、自ら最高傑作、最後の長編小説になるかもしれない、と言い切る一作。
持てるテクニックを出しきった一作です。
大いなる助走
筒井康隆が文学賞への“怨念”をこめて文壇を震撼させた問題作!文壇予備軍・同人誌作家がブンガク賞をめざして抱く大いなる野望と陰謀──選考委員、編集者、文壇バーに象徴される作家集団の恐るべき内情。
地方で繰り広げられる文学談義の虚構。行間にみっしり詰め込まれた破壊力でタブーとされた“文壇”とその周辺の人間群像をパロディ化し、文壇の俗物性を痛烈に嘲笑。単行本刊行と同時にカンカンガクガクの話題をまいた猛毒性長篇小説。
猛毒も猛毒で、これぞ筒井康隆の真骨頂、と言ってもいいほどの、痛快さがあります。
小説好きの多くは、反骨心があってロックな心を持っていると思うんですが、そういう反体制、反抗的な作家は応援したくなりますよね。くたばれ文壇。
村上春樹も、昔の文壇の空気感はとても嫌だったとエッセイなんかで語っていますね。今ではそうでもないみたいですが。昔は出版界も偉ぶっていたのが、売れなくなって勢いが弱まっちゃったのでしょうか。
そうなると文壇にはもっと頑張って欲しくなりますね。
ダンシング・ヴァニティ
美術評論家のおれが住む家のまわりでは喧嘩がたえまなく繰り返され、老いた母と妻、娘たちを騒ぎから守ろうとおれは繰り返し対応に四苦八苦。そこに死んだはずの父親や息子が繰り返し訪ねてきて……。
コピー&ペーストによって執拗に反復され、奇妙に捩れていく記述が奏でるのは錯乱の世界か、文学のダンスか? 巨匠が切り開いた恐るべき技法の頂点にして、前人未到の文学世界!
70歳でこんな尖った小説が書けるのか、というような感じ。やっぱりどこかラテン文学の匂いがします。
理路整然とした物語が好きな人には、決して本作含む、筒井康隆の実験小説はオススメしません。
残像に口紅を
「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまった。世界からひとつ、またひとつと、ことばが消えてゆく。
愛するものを失うことは、とても哀しい…。言語が消滅するなかで、執筆し、飲食し、講演し、交情する小説家を描き、その後の著者自身の断筆状況を予感させる、究極の実験的長篇小説。
幽々白書の『蔵馬vs海藤』の元ネタとも言われる作品。言葉が失われていきます。発想自体は世界中で使われている技法ですが、『本当は何を言いたかったのか』を類推させるテクニックは素晴らしい。
霊長類 南へ
瀋陽のミサイル基地で四人の男女が殴りあいを始めた。倒れた男の背が制御盤の赤いボタンを押した。その頃、日本では…。面白うてやがて悲しきハメツの物語。最終戦争のテーマの極致!(中原 涼)
初期の名作です。
人間を描くのが上手いですね。凄味や迫力だけでなく、滑稽さを描かせたらピカ一です。
俺の血は他人の血
いつもは小心なサラリーマンの俺だが、いったん怒りだすと意識がなくなり、怪力を発揮してあばれだす。しまいには、人を殺してしまうかもしれない……俺はそれが怖い。三人のヤクザをいっぺんに叩きつけた俺のスゴさを見込んで、対立するヤクザの幹部が用心棒になってくれと頼んできた。それが、小さな都市を壊滅させる大抗争の発端だった。ハードボイルド・タッチの痛快長編小説。第6回星雲賞受賞作。
筒井康隆はハードボイルドも良いんですよね。まぁもちろん、いわゆる普通のハードボイルドではありませんが。笑
グロ表現さえも滑稽にしてしまうテクニックをぜひ味わってみてください。
Kindleで読めます。
メタモルフォセス群島
足のはえてくる果実。木の枝に寄生している小動物。人間を食べて首に似た果実をつける植物。放射能の影響であらゆる生物が突然変異体(ミュータント)と化した不気味な世界を描いた『メタモルフォセス群島』。妻子を脱獄囚に人質にとられたサラリーマンが、脱獄囚の家にのり込んで脅迫のエスカレーションを企てる『毟りあい』。ほかに『五郎八航空』『定年食』など幻想と恐怖の突然変異的作品群。
初期の良作が多数収録されています。
規制がかかるのではないかという表現も多数あるので、好きな人だけどうぞ。
ヨッパ谷への降下
見知らぬ夜の街で、若い裸の美女に導かれて奇妙な洞窟の温泉を滑り落ちる「エロチック街道」。九度死んで生きる虫の、いや増す死の恐怖を描いた「九死虫」。海のなかに建つ巨大な家で、水浸しの縁側を少年が漂流する「家」。乳白色に厚く張りめぐらされたヨッパグモの巣を降下する幻想的な川端康成文学賞受賞作「ヨッパ谷への降下」ほか、夢幻の異空間へ読者を誘う魔術的傑作12編。
こちらも名作短編集。
ジョジョパクリ論争があったりしますが、筒井康隆は世界中の文学に影響を受けて作風を取り入れていますし、荒木飛呂彦も映画や小説を題材にオマージュするので、どちらがパクリだとかそういうのはあまり意味をなさないと思いますね。
両者ともそんな低い次元にいませんし。私はどちらもファンです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
かなり長くなってしまいました。猛毒を持った作家ですが、読みやすいものもありますので、まずは『時かけ』や『パプリカ』、『旅のラゴス』あたりから読み始めてはどうでしょうか。
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