はじめに:村上春樹のインタビュー集
1997年~2011年にかけて、村上春樹が世界中で受けたインタビューがまとめられた一冊です。この期間に出版された翻訳作品以外の主な作品はこんな感じ。
- 若い読者のための短編小説案内
- 約束された場所で
- スプートニクの恋人
- 神の子どもたちはみな踊る
- シドニー!
- 海辺のカフカ
- アフターダーク
- 東京奇譚集
- 走ることについて語るときに僕の語ること
それぞれの作品についてのインタビューもたくさん掲載されています。海外でのインタビューが多いです。
日本ではあまり公の場に出ないし、日本のことどう思ってるんだろう、そう思う人も多いでしょうが、本書内には日本に対する気持ちもたくさん書かれていますので、興味がある方は読んでみてください。

夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011 (文春文庫)
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/09/04
- メディア: 文庫
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目次
お金で買える最もすばらしいもの:時間と自由
お金のために働いているのか?それとも執筆に専念するだけの金銭的な余裕があるのか?という、ロシアの読者からの質問への回答の一部です。
お金で買うことのできるもっともすばらしいものは、時間と自由である、というのが僕の昔から変わらない信念です。時間と自由があれば、雑事に邪魔されることなく、集中して次の小節を執筆することができます。
(『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』本文より)
村上春樹は一番の目標を、小説の執筆においていました。そのためには、自由と時間が大切で、お金でそれらは手に入る、と言います。
我々にも同じことが言えるのではないでしょうか。自分たちの本当にしたいことは何なのか、それがまず先にあり、それを達成するためにお金を使う。自由と時間を手に入れるのに使う。すごく合理的なように思えます。
レイモンド・カーヴァーへの友情
本書にはレイモンド・カーヴァーへの言及がむちゃくちゃたくさん出てきます。どんだけ好きなん、っていうくらい。読んでて笑えます笑
村上春樹は彼の全集も訳していて、それには良くできた作品はもちろん、もう少し手を加えたかったであろう未発表作品も含まれています。
そして彼は、翻訳のことを、『極端に濃密な読書体験』と言います。ロールプレイング・ゲームに譬えて、精神治療的な見地からも有用とも言い切ります。
実際に彼がカーヴァーと対面したのはそんなに多くないはずですが、創作者としてカーヴァー作品を読み込むことで意識の底の方でつながる体験をしたんでしょうね。彼に対する気持ちは、翻訳すべき仕事としてではなく、個人的友情という感情が当てはまるなぁと。

愛について語るときに我々の語ること (村上春樹翻訳ライブラリー)
- 作者: レイモンドカーヴァー,Raymond Carver,村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/07
- メディア: 新書
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村上春樹の目指すゴール
ロシア読者からのインタビューで明言しています。
自分の中の最終的な目標を、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』においています。そこには、小説のもつすべての要素が詰め込まれています。そしてそれは、ひとつの統一された見事な宇宙を形成しています。僕はそのようなかたちをとった、現代における「総合小説」のようなものを書きたいと考えています。それはずいぶん難しいことに鳴るかもしれないけれど。
(『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』本文より)
このインタビューよりあと、彼は『1Q84』を書き、三人称視点が移り変わる形式で、より広大な世界を描こうとしました。彼の中では『カラマーゾフの兄弟』にたどり着いたのでしょうか?
私が感じたのは、彼の中でひとつの時代が終わったのだということです。オウム真理教に関するの一連の事件の中で彼が考えていた、『閉じた世界』(=自己の精神内に囚われる、宗教に付け込まれる世界)、と『開かれた世界』、というものの解釈が、本作で完了したということです。1Q84では直接的な形で、新興宗教が取り上げられています。
同時に、彼は人間が『閉じた世界』に捕らわれてしまう際の治療として、物語があると考えていました。人びとが同じ物語を読んで心揺さぶられる時、潜在意識の奥の方でつながることができるのだ、と言うのです。それはつながりを求める人にとってはある種の自己治癒となりえる。
宗教臭く聞こえなくはないですね笑
ともかく、『カラマーゾフの兄弟』のような小説をまだ書きたいと思っているのか、気になるところではあります。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
それにしてもお金で時間と自由を買って、本当にしたいことに専念するって、夢の様な生活ですね。凡人がしようと思っても数々の誘惑に堕落しそうですが。。。
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