物語に濃淡はないけれど、日常風景の描写が素敵な作家
小学校4年生の国語の教科書で、"たった三行でわたしに小説を書き続けるエネルギーをくれたのはジャン・コクトーの「シャボン玉」という詩だった"という。
高校時代から小説を書き始める。大学卒業後は4年ほど機械メーカーでOLとして勤めた。1998年、「トーキング・アバウト・ミー」で第35回文藝賞の最終候補になる(受賞者は鹿島田真希)。1999年、短編「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」が『文藝別冊 J文学ブック・チャートBEST200』に掲載されて作家デビューする。●受賞歴
2006年 第24回咲くやこの花賞(文芸その他部門)『きょうのできごと』
2006年 2007年 - 第23回織田作之助賞大賞、第57回芸術選奨文部科学大臣新人賞『その街の今は』
2010年 第32回野間文芸新人賞『寝ても覚めても』
2014年 第151回芥川龍之介賞『春の庭』
柴崎友香 - Wikipedia
カタルシスを伴う大きな感動、恐怖や怒りに身を震わせるほどの衝撃。こういうものを味わいたいのならば、柴崎友香の小説を読むのはやめておきましょう。
物語に濃淡は少ないですし、悪く言えばダラダラと日常を描いているような小説なんですから。
けれど、日常の風景の切り取り方が秀逸で、一度読んでしまえば、自分の生活の見え方までいつのまにか変えられてしまう。そんな不思議な魅力を持った作品を書く作家です。
この記事では、柴崎友香のおすすめ小説ベスト7をランキング形式で紹介します。
目次
ランキング
ランキングポリシーと所感を下記↓
- 独自ランキング
- 初読時はつまらないですが我慢すればやみつきに
- 大阪って良いかもって思わせてくれる小説家
それではランキングどうぞ
7位 寝ても覚めても
謎の男・麦に出会いたちまち恋に落ちた朝子。だが彼はほどなく姿を消す。三年後、東京に引っ越した朝子は、麦に生き写しの男と出会う…そっくりだから好きになったのか?好きになったから、そっくりに見えるのか?
めくるめく十年の恋を描き野間文芸新人賞を受賞した話題の長篇小説!
https://www.amazon.co.jp/dp/4309412939
私の柴崎友香デビュー作です。
数ページめくって試し読みした感想と、読後の感想がここまで異なる作家も少ないのではないでしょうか。
- 数十ページ読んだ時の私『つまらん時間返せ、文章下手くそ、作者の独りよがり見せつけるなよ』
- 読後の私『やられた』
プロットとか本当に適当で、人工的すぎるし、狙いすぎた文体にも不満足だったんです。けど、我慢して読み終えました。すると、読んでよかったと思える小説になってたんですよね。言葉の不確かさ、気持ちの不確かさ、論理の不確かさ、っていう言葉にできないものがあとに残る一作です。
6位 わたしがいなかった街で
離婚して1年、夫と暮らしていたマンションから引っ越した36歳の砂羽。昼は契約社員として働く砂羽は、夜毎、戦争や紛争のドキュメンタリーを見続ける。凄惨な映像の中で、怯え、逃げ惑う人々。何故そこにいるのが、わたしではなくて彼らなのか。サラエヴォで、大阪、広島、東京で、わたしは誰かが生きた場所を生きている――。
生の確かさと不可思議さを描き、世界の希望に到達する傑作。
https://www.amazon.co.jp/dp/4101376425
柴崎友香が時折使う”視点のゆらぎ”が味わい深い一作。
主人公の視点、ドキュメンタリー映像としての視点、第三者の見る景色としての視点。それらを通して見る私たちの視点。仕掛けがおもしろい一作です。
5位 星よりひそかに
彼の部屋でラブレターを見つけた女、好きな人だけに振り向いてもらえないOL、まだ恋を知らない女子高生、数カ月で離婚したバーテンダー、恋人に会えない人気モデル、元彼の妻のブログを見るのが止められない二児の母……。
みんな"恋"に戸惑っている。 『きょうのできごと』から14年。恋とか愛とかよくわからなくなった"私たち"に、柴崎友香が贈る、等身大の恋の物語。
https://www.amazon.co.jp/dp/4344025644
柴崎友香は恋愛を描きます。
それは全くキラキラした純愛ものでもなく、”不倫の美学”的なエンタメ要素のあるものでもなく、ただ恋してしまってて味わう痛みや、痛々しい毒素です。
知らずに読むとびっくりするので注意。
4位 また会う日まで
高校の修学旅行の夜。鳴海くんとの間に感じた、恋とは違う、何か特別な感情……七年後、会社員になった有麻は、それを確かめるべく、東京に行くついでに、彼に会ってみようと思い立つ。はたして鳴海くんは、同じあの時間、何を感じていたのか?
せつない一週間の東京観光を描くロングセラー!
https://www.amazon.co.jp/dp/B00E37RIPQ
柴崎友香の淡々と抑揚少なく描く文体が極まってきた感の出てきた一作。決して美文ではないし、冗長でさえあります。
例えば川上未映子と比べると、”美文度”は相当落ちるはず。けれど彼女の文章は”柴崎友香”というジャンルになっちゃうほど癖になっちゃうんですよね。のんびり読んでください。
3位 きょうのできごと
きょうもこの惑星のどこかで、だれかとだれかが出会いすれ違う。京都の夜に集まった男女が、ある一日に経験した、いくつかの小さな物語。やさしくてせつなくてきらきらした恋愛宇宙があなたを誘う!
https://www.amazon.co.jp/dp/4309407110
柴崎友香のデビュー作です。デビュー作からスタイルは確立されています。何も事件が起こりません。笑 多分黒澤明監督が映画で取ろうとしたら原作のぬるさに怒るに違いありません。映画の魅せ方の王道である『クイック、クイック、スロー』なんて進み方じゃなく、『スロー、スロー、スロー』で書かれた小説なのですから。
2位 春の庭
第151回芥川賞受賞作。 行定勲監督によって映画化された『きょうのできごと』をはじめ、なにげない日常生活の中に、同時代の気分をあざやかに切り取ってきた、実力派・柴崎友香がさらにその手法を深化させた最新作。
離婚したばかりの元美容師・太郎は、世田谷にある取り壊し寸前の古いアパートに引っ越してきた。あるとき、同じアパートに住む女が、塀を乗り越え、隣の家の敷地に侵入しようとしているのを目撃する。注意しようと呼び止めたところ、太郎は女から意外な動機を聞かされる……
https://www.amazon.co.jp/dp/4163901019
芥川賞受賞作。いつもの作品よりも多少気合が入っているものの、”らしさ”は健在。淡々と書かれる日常を読んでいるたび、その視点が自分の脳味噌にインプットされていくような錯覚を覚えます。極端な話、この小説を読む前と読んだ後では、日常の見え方が変わっているのです。
また、阿部和重がテクニカルな文体に傾倒していた頃、人称の変化を意図的に取り入れることをやっていましたが、本作でもそれが少し味わえます。
1位 その街の今は
ここが昔どんなんやったか、知りたいねん―。28歳の歌ちゃんは、勤めていた会社が倒産し、カフェでバイトをしている。初めて参加したのに最低最悪だった合コンの帰り道、年下の良太郎と出くわした。二人は時々会って、大阪の古い写真を一緒に見たりするようになり―。
過ぎ去った時間やささやかな日常を包みこみ、姿を変えていく大阪の街。今を生きる若者の日々を描く、温かな物語。芸術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、咲くやこの花賞の三賞受賞。
https://www.amazon.co.jp/dp/4101376417
大阪の街の描写がとにかく良い。風景を描ける作家って良いですよね。柴崎友香にはその力があります。
私自身、昔住んでたこともあったこともあって、”ひいき目”のランク付になってはいますが、絶対に大阪に行きたくなるはず!通天閣周りの新世界のコテコテの空気感ばかり(新世界も好きですが)が大阪らしさじゃないとおいうことを、コレを読んで知ってほしい。笑
おわりに
柴崎友香のおすすめ小説ベスト7作をランキング形式で紹介しました。
関西弁が微妙な登場人物の気持ちを表します。何気ない街の風景が印象的に描かれます。それだけのことなんです。ただそれが、とても良い。
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