はじめに:スキマ時間に読める名小説
- 読書したいけど時間がない!
- 1冊でも多く小説を読みたい!
- 新しい作家を読みたいけどいきなり長編読んでハズレだと嫌!
そんな人のために、短時間でさくっと読めて、かつ心に残る小説を10作紹介します!
また、読まず嫌い作家の1作目に読んでみる小説として、読まず嫌い克服に使っていただけたらと思います。
目次
選定基準
- 1時間=約100ページ読めると想定
- 2時間程度で読める分量のおすすめ作品を独自に選定
- 1作家1作品
- 読了時間の目安と文庫本版の本編ページ数を併記
【日本文学編 】
雪沼とその周辺/堀江敏幸(読了時間目安:2時間 (197P))
小さなレコード店や製函工場で、時代の波に取り残されてなお、使い慣れた旧式の道具たちと血を通わすようにして生きる雪沼の人々。
廃業の日、無人のボウリング場にひょっこり現れたカップルに、最後のゲームをプレゼントしようと思い立つ店主を描く佳品「スタンス・ドット」をはじめ、山あいの寂びた町の日々の移ろいのなかに、それぞれの人生の甘苦を映しだす川端賞・谷崎賞受賞の傑作連作小説。
2001年、『熊の敷石』で第124回芥川龍之介賞受賞した堀江敏幸の短編集です。
都会生活の刺激的な風景とは全く逆の、時間がゆっくり流れているような地方の暮らしが、忙しない日常に読むと非常に染みます。
ただし、いわゆる『ほっこり系』の話では全く無く、全体を通して陰鬱なイメージが流れているのです。それでも何故か彼らのゆったりとした暮らしぶりに憧れてしまうのは、日々の暮らしに消耗しているせいなのでしょうか。
わたくし率 イン 歯ー、または世界/川上未映子 (読了時間目安:1時間半(136P))
人はいったい体のどこで考えているのか。それは脳、ではなく歯―人並みはずれて健康な奥歯、であると決めた“わたし”は、歯科助手に転職し、恋人の青木を想い、まだ見ぬ我が子にむけ日記を綴る。
哲学的テーマをリズミカルな独創的文体で描き、芥川賞候補となった表題作ほか一編を収録。著者初の小説集。
圧倒的、彼女の初期作品の文体を見て感じるのはその一言です。読み手を圧倒する文体の力があります。
まるで彼女の思考過程をそのまま文字起こししたように長く、読者を置いてけぼりにするような論理の飛躍を交えつつ彩り鮮やかにイメージを喚起し、一見すると他者を包みこむ温かいようでいてその実ひどく冷酷な刃を隠し持つ、それでいて人の醜さをことさら美しく描き出すような、味わい深い文体となっています。
どんぐり姉妹/よしもとばなな (読了時間目安:1時間半(154P))
姉の名前はどん子、妹はぐり子。突然の交通事故で、大好きだった両親の笑顔をうしなったふたりは、気むずかしいおじいちゃんの世話をしながら、手を取り合って生きてきた。そしてすべての苦しみが終わった日、ふたりが決めたのは小さな相談サイト「どんぐり姉妹」を開くこと。たわいない会話にこもる、命のかがやきを消さないように。ことばとイメージが美しく奏であう、心を温める物語。
『生きる』ということの意味を考えさせられる、とても温かい物語です。
よしもとばななの初期テーマとも言える、燃えるような恋愛だとか、大切なものを失った絶望とかではなくて、命そのものの温かみが感じられる作品。
*よしもとばななのおすすめ小説の記事書いてます。
風の歌を聴け/村上春樹(読了時間目安:1時間半(160P))
夏休みに海辺の街に帰省した〈僕〉は、友人の〈鼠〉とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。
二人それぞれの愛の屈托をさりげなく受けとめてやるうちに〈僕〉の夏はものうく、ほろ苦く過ぎ去っていく。青春の一片を乾いた軽快なタッチでとらえた出色のデビュー作。
どのページを開いてもおもしろいです。プロットはあってないようなもの。村上春樹自身はこの作品と二作目『1973年のピンボール』は、未熟だ、という理由で世界には翻訳を許していないようです。
ということで、それを読めるのは世界でも日本語を操れる日本人の特権とも言えますよね。村上の生身の精神が表れてしまっているのも、彼が出したがらない理由なのかもしれません。何度でも読めますよ。
*村上春樹のおすすめ短編小説記事書いてます。
【海外文学編】
ホーニヒベルガー博士の秘密/ミルチャ・エリアーデ(読了時間目安:2時間(185P))
研究している〈私〉のもとに、ある日一人の使いがやってくる。ヨーガの秘法に習熟したホーニヒベルガー博士の伝記を執筆中に亡くなった夫の代わりに、その仕事を完成してほしいというゼルレンディ夫人の申し出に興味をもった〈私〉は、遺された日記から驚くべき事実を発見する。
著者ミルチェ・エリアーデは、岡本太郎や平野啓一郎にも思想面で影響を与えたと言われています。日本の読者と親和性は高いです。
『セランポーレの夜』も併録されており、 合わせて185ページなのでさくっと読めます。
雨・赤毛/サマセット・モーム(読了時間目安:2時間(211P))
- 作者: サマセット・モーム,William Somerset Maugham,中野好夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1959/09/29
- メディア: 文庫
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狂信的な布教への情熱に燃える宣教師が、任地へ向う途中、検疫のために南洋の小島に上陸する。彼はここで同じ船の船客であるいかがわしい女の教化に乗りだすが、重く間断なく降り続く雨が彼の理性をかき乱してしまう……。
世界短篇小説史上の傑作といわれる「雨」のほか、浪漫的なムードとシニックな結末で読者を魅了する恋愛小説「赤毛」など、南海を舞台にした短篇3編を収録。雨・赤毛 (新潮文庫―モーム短篇集) | サマセット・モーム, William Somerset Maugham, 中野 好夫 | 本 | Amazon.co.jp
男はロマンチストすぎるのでしょうか。そのくせ理性を抑えられない、情けない生き物です。そんな男の弱さを完璧に描いた傑作『雨』は未読ならば、是非読むべきです。
サキ短編集/サキ(読了時間目安:2時間(219P))
ビルマで生れ、幼時に母と死別して故国イギリスの厳格な伯母の手で育てられたサキ。豊かな海外旅行の経験をもとにして、ユーモアとウィットの糖衣の下に、人の心を凍らせるような諷刺を隠した彼の作品は、ブラックユーモアと呼ぶにふさわしい後味を残して、読者の心に焼きつく。
『開いた窓』や『おせっかい』など、日本のSFやホラー作品にも多大な影響をあたえた代表的短編21編。
サキは、O・ヘンリーと並ぶ短編の名手として、よく比較されますが、私は断然サキ派です。ソリッドで洒落た文章に、無駄なく張り巡らされた伏線に、痺れること間違いなしです。
一作ずつがとても短く、5分で読める作品もたくさんあるので、通勤途中などでも余裕で楽しめます。
幽霊たち/ポール・オースター(読了時間目安:1時間(122P))
- 作者: ポール・オースター,Paul Auster,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1995/03/01
- メディア: 文庫
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私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。変装した男ホワイトから、ブラックを見張るように、と。真向いの部屋から、ブルーは見張り続ける。だが、ブラックの日常に何の変化もない。彼は、ただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。
ブルーは空想の世界に彷徨う。ブラックの正体やホワイトの目的を推理して。次第に、不安と焦燥と疑惑に駆られるブルー…。’80年代アメリカ文学の代表的作品!幽霊たち (新潮文庫) | ポール・オースター, Paul Auster, 柴田 元幸 | 本 | Amazon.co.jp
読者の意表をつく小説です。何かが起こりそうな気がする、何かが起こるはず、ずっとそのような空気が保たれたまま、何も起きずに時間が進んでいきます。
ブラックやブルー、ホワイトといった、記号的に付けられた名前も効果的に世界観を作り出している作品です。
*ポールオースターのおすすめ作品紹介記事書いてます
郷愁/ヘルマン・ヘッセ(読了時間目安:2時間(195P))
豊かな自然に囲まれて育ったペーターは故郷を離れ、文筆家を目指すため都会生活を始める。彼はそこで多くの人と出会い、多くの事を学ぶが、心の底では常に虚しさを感じていた。
文明の腐敗に失望し、故郷に戻った彼を待っていたのは、シンプルな暮らしと新たな出会いだったが……。叙情にあふれた美しい自然描写、青春の苦悩、故郷への思いを見事に描いた、著者の処女作にして出世作。
ヘッセの処女作は、彼の作品の数々の中でも、読んでいて陰鬱な気持ちが芽生えない作品と言えるのではないでしょうか。
ひたすら詩的な彼の文章をさっくり楽しめる、まさに入門としてオススメです。そこからは『車輪の下』、『デミアン』、『シッダールタ』など、ヘッセの描く人生の苦しみ、青春の苦さに少しずつ浸かっていくのが良いと思います。
アルケミスト/パウロ・コエーリョ
羊使いのサンチャゴは、彼を待つ宝が隠されているという夢を信じ、アフリカの砂漠を越えピラミッドを目指す。様々な出会いと別れを経験し、少年は人生の知恵を学んでゆく――。
Amazon.co.jp: アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫) eBook: パウロ・コエーリョ, 山川 紘矢, 山川 亜希子: Kindleストア
ビジネス書、いや自己啓発書風にも読むことができるでしょう。
ただし圧倒的にエンターテイメント性が高いものになっていて、物語にドキドキワクワクしたい、感情移入して自らを奮い立たせたい方にオススメ。
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大量の情報をコンパクトに。キンドルがお勧め。