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【小説・技法】マジック・リアリズムの解説とおすすめ作家・作品紹介【魔術的現実】

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読者の感覚を揺さぶる表現豊かな作家・作品を紹介します。

小説技法:マジックリアリズム とは?

マジックリアリズム、マギッシャーレアリスムス(Magischer Realismus)、魔術的リアリズム(まじゅつてきリアリズム)とは日常にあるものが日常にないものと融合した作品に対して使われる芸術表現技法で、主に小説や美術に見られる。
マジックリアリズム - Wikipedia


小説、しかもいわゆる”文学”を読んでいて、強烈な違和感に襲われたことはありませんか? あたかも当然のことのように非日常なことが起こる。私たちがいる、いわゆる普通の世界が舞台のはずなのに、です。


例えばこんな感じ。

眠れなくなってもう十七日目になる。
私は不眠症のことを言っているのではない。不眠症のことなら私も知っている。大学生の頃に、一度不眠症のようなものにかかったことがある。
眠り/村上春樹


もし日本文学を学ぶ、小学校の国語の教科書にこんな文が載っていないですよね。


もちろん、これがファンタジーやSFだとしたら違和感はありません。
ファンタジーやSFで描かれる非現実は、このような違和感を感じません。ファンタジーということを前提に書かれているからです。舞台がここではないどこかだ、ということが明示されているのです。

例えば、『ハリーポッター』では、魔法やユニコーンなど、非現実なことがでてきますが、”ホグワーツ”という別の世界にいくことで、また、『スターウォーズ』では、”遠い昔はるか銀河の彼方で”という舞台設定をすることで、我々が今いる世界ではないどこかのことを規定しているのです。


では先の村上春樹の小説のような、いわゆる”文学”の中でこのような手法が使われる場合とはどんな場合でしょうか。リアリズム(現実をそのまま描写する手法。現実主義・写実主義)小説の中に、ファンタジー、SFで起こるような出来事が突然起こりだすような場合です。

例えば、リアルな日常・ハードな人間関係を主題として描かれているような小説の中、突然登場人物が天に昇り出す、宙を舞う、雨が何年もふり続けるなどのありえないことが起こる、などです。

マジックリアリズムの使い手はまるでそれが本当に起こっていることのように思わせます。少なくとも、本当に起こりえるのだと感じられるのです。

結果として今いる世界が全ててはない、現実に起こっていることだけが全てではない、そういった、人々が持つ豊かな直感を確かなものにしてくれます。

この記事では、読者の感覚を揺さぶる表現豊かな作家・作品を紹介します。

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目次

 

ガルシア・マルケス

マジックリアリズムと言えばまずはこの人。後述する安部公房や村上春樹を含む、世界中の様々な作家に影響を与えています。
ノーベル賞受賞作家で、受賞理由も、”現実的なものと幻想的なものを融合させて一つの大陸のせいと葛藤の実装を反映するゆたかな想像力の世界を構築した”と、マジックリアリズムの手法確立によるものが大きいです。

ここでは代表作をご紹介します。

百年の孤独

蜃気楼の村マコンド。その草創、隆盛、衰退、ついには廃墟と化すまでのめくるめく百年を通じて、村の開拓者一族ブエンディア家の、一人からまた一人へと受け継がれる運命にあった底なしの孤独は、絶望と野望、苦悶と悦楽、現実と幻想、死と生、すなわち人間であることの葛藤をことごとく呑み尽しながら…。20世紀が生んだ、物語の豊潤な奇蹟。
https://www.amazon.co.jp/dp/4105090119

世界文学史に燦然と輝く名作小説です。大きなメディア、個人ブログ問わず◯◯小説ベスト100などに必ずと行っていいほど名前を連ねる小説です。

リアリズムという手法だけでは描ききれなかった感情や感覚を、超常現象を通して表現しいます。南米文学、読んでみると読書観が変わるようなものが多いのでおすすめです。もう既に読んじゃった、っていう方にはバルガス・リョサなどもおすすめ。

ミラン・クンデラ

マジックリアリズムはラテンアメリカと結び付けられることも多いですが、世界中に派生していっています。特に、政治的に激動の時代を経験している作家に多く見られます。20世紀、激動の東ヨーロッパにおけるマジックリアリズムの旗手と言えばミラン・クンデラ。
一作ご紹介します。

笑いと忘却の書

党の粛清により、隣の男に貸した帽子を除いて、すべての写真から消滅した男。一枚の写真も持たずに亡命したため、薄れゆく記憶とともに、自分の過去が消えてしまうのではないかと脅える女…。“笑い”と“忘却”というモチーフが、さまざまなエピソードを通して繰り返しバリエーションを奏でながら展開され、共鳴し合いながら、精緻なモザイクのように編み上げられる物語。
https://www.amazon.co.jp/dp/4087606775

ミラン・クンデラの持ち味はシニカルな目線とユーモア。本作でも様々な文章にそれらを感じることができます。説得力の高い文章は本当に唸らされるばかり。

その説得力が、マジックリアリズムという、違和感を中和し、自然に理解させることに成功しているのです。ものすごい高揚感が読者をつつむおすすめ小説です。

イタロ・カルヴィーノ

イタリアの前衛小説の書き手であり、国民的作家のイタロ・カルヴィーノも注目すべき作家です。彼の場合、技巧がものすごく、マジックリアリズムもですが、夢のような世界を描くシュールレアリズムという手法でも有名です。
そんな一作をご紹介したいと思います。

柔かい月

変幻自在な語り部Qfwfq氏。あるときは地球の起源の目撃者となり、あるときは生物の進化過程の生殖細胞となって、宇宙史と生命史の途方もなく奇想天外な物語を繰り広げる。現代イタリア文学界を代表する作家が、伝統的な小説技法を打ち破り、自由奔放に想像の翼をはばたかせて描いた連作短編集。幻想と科学的認識とが、高密度で結晶した傑作。
https://www.amazon.co.jp/dp/4309462324

まるで自分が神様になったかのような目線で物語を読み進められることができます。はっきりいってものすごい体験。個人的には、映画『マトリックス 』で受けたような感覚:こんなの初めて!というのを味わうことができました。

豊富な科学・SF知識と、文学的素養を併せ持つイタロ・カルヴィーノならではのおすすめ作品です。

安部公房

日本のカフカと呼ばれる安部公房ですが、ガルシア・マルケスからも多大な影響を受けています。恐怖や不安を伴ったマジックリアリズムを操らせたら一級品です。

例えば、生きている中で、当然と思うことがたくさんあります。例えば空気や水の存在、自分が自分であるということ、などなど。そんな当然のことさえも疑ってかかる安部公房作品はどれも唸らされます。

過去記事にたくさんおすすめ作品紹介を載せています。

過去記事

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砂の女

 砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数ヶ国語に翻訳されている。読売文学賞受賞作。
https://www.amazon.co.jp/dp/410112115X

ドキュメンタルな手法=現実が描かれている、というように見せかけておいて、知らず知らずのうちに奇想天外な展開に引き込まれていきます。極限の状態に追い込まれている中ということで、ドラマが起きないわけがありません。読み手の感情を揺さぶるのが本当に上手いです。

安部公房初心者の方も、この作品から入って全く問題ありません。超おすすめの作品です。 

村上春樹

現実的な世界を詩的な世界と融合させると並ぶものはいない、村上チルドレン、春樹チルドレンを数多く生み出してきた村上春樹。

冒頭の”眠り”でも引用しましたが、村上春樹は非現実を、説得力を持って、違和感なく読ませることのできる数少ない作家の一人です。他の作家がやると、どうしてもファンタジー臭く、架空の話っぽくなってしまうのですが、村上春樹は何故だか本当のような気がしてしまうんですよね。

議論はあると思いますが、マジックリアリズム作家としておすすめ作品を紹介します。

過去記事

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ねじまき鳥クロニクル

 

 

「人が死ぬのって、素敵よね」彼女は僕のすぐ耳もとでしゃべっていたので、その言葉はあたたかい湿った息と一緒に僕の体内にそっともぐりこんできた。「どうして?」と僕は訊いた。娘はまるで封をするように僕の唇の上に指を一本置いた。「質問はしないで」と彼女は言った。「それから目も開けないでね。わかった?」僕は彼女の声と同じくらい小さくうなずいた。(本文より)
https://www.amazon.co.jp/dp/4101001413

 『ノルウェイの森』がリアリズムで書かれました(現実に起こり得る描写のみで書ききる。その大ヒットで、リアリズム作家として村上春樹のイメージを固めてしまっている人はもったいないです。

彼の真骨頂は、現実と非現実の融合にあるのですから。本作『ねじまき鳥クロニクル』も、本当のことと、空想のことが混じっているようなところがたくさんあります。ただ、どれもが真実であり、信じるに値する物語となっています。そのあたりの技量は本当に素晴らしいです。

あなたにとって一生に一度出会えるか出会えないくらいの小説が読めるかもしれない、それほどおすすめできる小説です。

 

おわりに

現実では起こり得ないことをまるで現実に起こっているかのように表現する。

ただ事実を述べるだけでは伝えられない大きな感情の揺れ、特殊な高揚感、そういったものを伝えるには、読者の精神的なネジを外す必要がある場合もあります。そのために用いられているマジックリアリズムの手法を、作品・作家とともに紹介しました。

感情のリミットを外して、ものすごい体験をしてみてください。

 

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