はじめに:短編は『うまくて当然』
うまくかけていない短編小説なんて、ストライク・ゾーンでの細かいボールの出し入れができない中継ぎのピッチャーみたいなものです。ストライクが思うように入らないことには、ピッチングの組み立てができない。
(『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』本文より)
前提条件として、短編はうまくないと話にならない。村上春樹は言います。確かに、引きこんでくれない短編なんて、毛のない猫のようなものですものね。
そんな短編観を持つ村上春樹が師と仰ぐ、短編小説の名手たちを紹介します。
夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011 (文春文庫)
- 作者: 村上春樹
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- 発売日: 2012/09/04
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目次
村上春樹の短編小説の3人の師
村上春樹は全く作風の違う3人を短編小説の師と仰いでいます。
早速見ていきましょう。
スコット・フィツジェラルド
村上春樹の心の一冊『グレート・ギャッツビィ』の作者ですね。20代で完璧な小説を書き上げたまさに天才です。
村上春樹はフィツジェラルドの短編を『身過ぎ世過ぎのために書かれた』ので、『ちょっといけないなぁ』というものもあるけど『いいものはやたらいい』と評しています。読み終えた後に、遠くの風景がふっと浮かぶような、小説への志が見られるとまで評しています。大ファンですね。
確かに、お金のために書いたエンタメハッピーエンド短編にも、まじりっけの無い才能が溢れています。 『冬の夢』は超おすすめです。独特の青春の終わりの寂しさを表現した短編、奇想天外な展開のエンタメもの、色んなフィッツジェラルドが読めます。
トルーマン・カポーティ
カポーティの短編小説は妖しい文章が魅力だ、と村上春樹は語ります。短編は一発勝負で人を引き込むのが必須条件ですから、フェロモンが必要ということを学んだのですね。
生まれながらの天才的、芸術的な散文の持ち主で、その才能ゆえに、長編には向かないとも分析しています。未完成とも言える『叶えられた祈り』など、晩年は特に苦しんでいたことからもわかりますが、適切な分析だと思いますね。
私はカポーティの純粋無垢な、郷愁を誘う物語が非常に好みです。『夜の樹』は、そんなセンチメンタルな作品を含め、多彩なラインナップの短編集です。おすすめ。
レイモンド・カーヴァー
そして、もちろんレイモンド・カーヴァーですね。村上春樹のカーヴァー愛はたくさんのインタビューや、翻訳した短編集のあとがきやらで、村上春樹愛読者ならご存知だと思います。
ある光と、ある空気と、ある響きを組み合わせて、そこに特別な物語空間をさっと作り上げることが、この人にはできました。
(『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』本文より
この一文は素晴らしく端的にカーヴァーの魅力を表しています。何気ない日常のものを組み合わせて、とんでもなく複雑で深遠な感情を想起させる天才です。カーヴァーの小説は読んでいて辛いほどリアルな感情を呼び起こします。
愛について語るときに我々の語ること (村上春樹翻訳ライブラリー)
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おわりに
いかがでしたでしょうか。
『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』では、日本人作家の短編についても書かれています。吉行淳之介、小島信夫、安岡章太郎、庄野潤三、丸谷才一、長谷川四郎などが言及されています。
また、短編小説に関するもの以外にも、たくさんのインタビューがあります。それらについて感じたことについても、またいつか記事にしたいと思います。
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