はじめに: 世界的日本人小説家は村上春樹、川上未映子は?
世界に通用する現役日本人小説家、と言うと、村上春樹以外にはあまり思いつかないかもしれません。作品を出すたびに賛否両論が凄まじく、荒れますが、実績的には村上春樹が圧倒的に突出しているのは間違いありません。
ノーベル文学賞を取れるかもなんていうの作家、今は村上春樹ぐらいですものね。
一方、日本国内での文学の地位低下は止まりません。出版ビジネス終わるんじゃね?ってくらい出版不況です。特に純文学。
そんななか、光り輝いている女性作家が川上未映子。
彼女も世間から賛否両論すさまじい作家ではありますが、間違いなく純文学の次世代の担い手(といってももはや若手ではなくなりつつあるか。。。)と言っても良いのではないでしょうか。作品を出せば賞を受賞するのは当たり前、フランス圏を始めとして、世界で読まれ始めている作家です。個人的には、大化けすれば村上春樹ばりに世界と戦えるんじゃないかと思っています。応援!!
ちなみに、作家の阿部和重が夫で、川上未映子とともに芥川賞受賞というすごいカップルでもあります。子どももいるっていう。どんな大人になるのやら。
本記事では、個人的にも偏愛する川上未映子の作品を布教したいと思います!!
目次
- はじめに: 世界的日本人小説家は村上春樹、川上未映子は?
- 目次
- 受賞歴
- わたくし率 イン 歯ー、または世界
- 乳と卵
- ヘヴン
- すべて真夜中の恋人たち
- 愛の夢とか
- あこがれ
- エッセイ・詩集
- おわりに
- あわせて読みたい
受賞歴
- 2007年 第1回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞(『わたくし率 イン歯-、または世界』『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』)
- 2008年 第138回芥川龍之介賞(『乳と卵』)
- 2008年 第1回池田晶子記念賞(『わたくし率 イン歯-、または世界』『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』)
- 2009年 第14回中原中也賞(『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』)
- 2010年 第83回キネマ旬報新人女優賞を受賞(『パンドラの匣』)
- 2010年 第5回おおさかシネマフェスティバル新人女優賞
- 2010年 第60回芸術選奨文部科学大臣新人賞『ヘヴン』)
- 2010年 第20回紫式部文学賞(『ヘヴン』)
- 2013年 第43回高見順賞(『水瓶』)
- 2013年 第49回谷崎潤一郎賞(『愛の夢とか』)
- 2016年 Granta Best of Young Japanese Novelists 2016(『マリーの愛の証明』)
- 2016年 第1回渡辺淳一文学賞(『あこがれ』)
出せば賞を取るって感じです。
それではおすすめ作品紹介どうぞ!
わたくし率 イン 歯ー、または世界
私は奥歯や、わたくし率はぱんぱんで奥歯にとじこめられておる!!
著者第1小説集芥川賞候補、坪内逍遙大賞奨励賞
人はいったい体のどこで考えているのか。それは脳、ではなく歯――人並みはずれて健康な奥歯、であると決めた<わたし>は、歯科助手に転職し、恋人の青木を想い、まだ見ぬ我が子にむけ日記を綴る。哲学的テーマをリズミカルな独創的文体で描き、芥川賞候補となった表題作ほか1編を収録。著者初の小説集。
まっとうに生きて、まっとうな本を読んで、まっとうに主人公に感情移入して、まっとうなカタルシスを得たいような人には全くおすすめできない作品。
なぜならそのような人には本作の主人公に感情移入することは望めないからです。そして、そもそも主人公に感情移入させようとする作品ではありません。
関西弁で句読点を多用し、思考の流れをそのまま表現することを試みているのか、どこかだらだらぼんやりしている中に、鋭くどす暗い怨念のようなものを混ぜ込んだ、へんてこな文体が、やみつきになるわけじゃないしとても読みづらいんだけれども、妙に読み手と共鳴する、心の中に言わば引っ掛かりのようなものを生んで、印象的。
少し気が触れているかもしれない、と感じるあなたはきっとハマるはず。
乳と卵
2008年の第138回芥川賞受賞作! 娘の緑子を連れて大阪から上京してきた姉でホステスの巻子。巻子は豊胸手術を受けることに取りつかれている。緑子は言葉を発することを拒否し、ノートに言葉を書き連ねる。夏の三日間に展開される哀切なドラマは、身体と言葉の狂おしい交錯としての表現を極める。日本文学の風景を一夜にして変えてしまった傑作。
私はこれから川上未映子に入りました。
川上未映子のどす黒くてネガティブでナイーブな感性が世界観に反映されています。
全く個人的な目線ですが、どのページ、どの文章(一文とは言いませんが)を読んでもおもしろい作家に惹かれます。そういう作家は感性が共鳴しているというか、『つながっている』感覚がする作家なのです。
川上未映子作品はかなりその感覚近いです。
全く関連のない物語の話なのに、設定も、時には性別も年齢さえも違う話なのに、その物語が自分とどこかでつながっているような気にさせてくれるのです。
終盤の盛り上がりはスゴイ。
芥川賞受賞作で、審査員は池澤夏樹、小川洋子、村上龍、黒井千次、高樹のぶ子、宮本輝、川上弘美、石原慎太郎、山田詠美。
石原慎太郎のみ反対で、『まったく認めなかった』とのこと。まぁ石原慎太郎ならそんなこと言いそうな気がしますね笑
ちなみにこの時の他候補は、田中慎弥、津村記久子、中山智幸、西村賢太、山崎ナオコーラ、楊 逸 と錚々たる小説家たち。田中慎弥、西村賢太はこのあと取った際に色々話題になりました。
ともかく川上未映子の出世作ですね。これは絶対に必読の一冊!超おすすめ!
ヘヴン
「苛められ、暴力をふるわれ、なぜ僕はそれに従うことしかできないのだろう」 善悪の根源を問う、著者初の長編小説。
川上未映子の作品には醜かったり、蔑まれていたり、虐められていたりと、弱い存在が必ずと言っていいほど出てきます。時には弱い者に対する表現がドギつくて、読み進めるのがつらいところも多くあります。
初の長編で、これまでよりも闇が濃くなっていて、作者の怨念が感じられます。怨念の力か、相当力が入っているものの色々と荒削りな長編になっています。闇の深さはすさまじいです。
怒涛の盛り上がりは『乳と卵』ばり。『乳と卵』もしくは『わたくし率~』を読んで初期の川上未映子にハマったら絶対に読むべき。
すべて真夜中の恋人たち
「真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う」。わたしは、人と言葉を交わしたりすることにさえ自信がもてない。誰もいない部屋で校正の仕事をする、そんな日々のなかで三束さんにであった――。芥川賞作家が描く究極の恋愛は、心迷うすべての人にかけがえのない光を教えてくれる。渾身の長編小説。
これまで同様暗い世界を描いてはいます。ただし描き方がはっきりと変わってきたのはこの『すべて真夜中の恋人たち』からだと個人的に思っています。
きっとプライヴェートで良いことがあったのではないでしょうか(現在の夫の阿部和重:芥川賞作家といい感じだったのか?)。
登場人物がいけてない、救いようのない感じは変わらずなのですが、直接闇そのものを描くような手法ではなくなっています。周囲を輝かせて闇を浮かび上がらせているような、そんな世界です。
文体も読みやすくしてきていて、長編ですがさくさく読めます。おすすめ。
愛の夢とか
あのとき、ふたりが世界のすべてになった――。ピアノの音に誘われて始まった女どうしの交流を描く表題作「愛の夢とか」。別れた恋人との約束の植物園に向かう「日曜日はどこへ」他、なにげない日常の中でささやかな光を放つ瞬間を美しい言葉で綴る。谷崎潤一郎賞受賞作。
収録作:アイスクリーム熱/愛の夢とか/いちご畑が永遠につづいてゆくのだから/日曜日はどこへ/三月の毛糸/お花畑自身/十三月怪談
読後、こんなに川上未映子が優しくなれるのか、まるで陽だまりのようだ!!衝撃的に感じたことを覚えています。
とにかく美しくて読み返したく短編の数々。過去記事でも何回か言及していますが、『十三月怪談』は反則。川上未映子が『セカチュー』を本気で書いたら、って感じの作品なんですが。凄まじい破壊力です。
癖を少しずつとって柔らかくなったのはあべちゃん(夫の阿部和重:芥川賞作家)のおかげなのか?
さくっと読めるし何度も楽しめるので超おすすめ!!
あこがれ
麦彦とヘガティー、思春期直前の二人が、脆くはかない殻のようなイノセンスを抱えて全力で走り抜ける。この不条理に満ちた世界を――。サンドイッチ売り場の奇妙な女性、まだ見ぬ家族……さまざまな〈あこがれ〉の対象を持ちながら必死で生きる少年少女のぎりぎりのユートピアを繊細かつ強靭無比な筆力で描き尽くす感動作。
冒頭文の続々するような始まりが超絶印象的な『ミス・アイスサンドイッチ』。
クライマックスの盛り上がりと、柔らかで繊細な文体の融合に涙が止まらない『苺ジャムから苺をひけば』
いやぁ、また高みへ登ったな、という感じ。冒頭で一気に鳥肌がたちます。
フロリダまでは213。丁寧までは320。教会薬は380で、チョコ・スキップまでは415。四十代まで430、
(本文より)
続きは是非読んでみてください。
川上未映子は自分の体験を切り出して物語を紡いでいることがわかります。お子さんができてからの心構えや、ものの見方の変化が垣間見れます。
刺々しい文体を離れて、ますます文章は読みやすくなっていて、闇というより光で心を動かすことに成功しています。超おすすめ。
エッセイ・詩集
エッセイ『きみは赤ちゃん』は超人気で、詩集も中原中也賞を取るなど絶好調。『きみは赤ちゃん』は『あこがれ』にも通じる作品なので、妊婦の方、親御さん以外にもおすすめです。
きみは赤ちゃん
35歳ではじめての出産。それは試練の始まりだった! 芥川賞作家の川上未映子さんは、2011年にやはり芥川賞作家の阿部和重さんと結婚、翌年、男児を出産しました。つわり、マタニティー・ブルー、出生前検査を受けるべきかどうか、心とからだに訪れる激しい変化、そして分娩後の壮絶な苦しみ……。これから産む人、すでに産んだ人、そして生もうかどうか迷っている人とその家族に贈る、号泣と爆笑の出産・育児エッセイ!
個人的にはエッセイを読んで、やっぱり川上未映子は根暗でネガティブでヒステリーなんだな~と納得できました。(妊婦・出産期以外のところでも)
めちゃくちゃおもしろいです。これ。
【過去記事】
先端で、さすわさされるわそらええわ
よるべなき虚空をゆく一個の疑問符は何を貫き、何に融けるのか?“少女”という憑坐を得て、いま言葉はうたい、さわぎだす。圧倒的新星の伝説的デビュー作を含む7編、ここに爆誕。
詩集も出すし、女優もやるし、音楽もする。
マルチですね~。
関西弁のキャッチーなタイトル、良いです。
水瓶
ありとあらゆる少女のよろこび。奔放にして芳醇な言語宇宙の炸裂を見よ。
『バナナフィッシュにうってつけだった日』があります、円城塔も『バナナ剥きに最適の日々』というのを出していましたね。
これらはもちろんサリンジャー『バナナフィッシュにうってつけの日』から来ていますが、サリンジャーはきっと古典として、未来に続く文学の原典として引用され続けるのでしょうね。。。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
美しくて芥川賞を取って阿部和重と結婚して子どもを授かって詩集も出して女優で賞も取って音楽でもCD出して、、、天はいくつ才を授けるのかって感じですが、小説に罪はなく、(川上未映子にももちろんない)超おもしろいのでぜひ読んでみてください!!!
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