はじめに:浅野いにおって?
ある種の若者にカリスマ的人気を誇る浅野いにお。宮崎あおい主演で相当な反響があった『ソラニン』、そして長編『おやすみプンプン』が大ヒットしたあの作家です。
いわゆるモラトリアムの若者の苦悩を描いた作品が多く、およそ大の大人、まっとうな大人の視点で読んでも楽しめないものもあります。社会不適合者が描いた薄っぺらいマンガ、なんて言われることもあるのです。
ただ、多くの若者の心に響くということは、大切なものが隠されているはずです。大人がなくしてしまったもの、忘れてしまったものを、CGと手書きを組み合わせた素晴らしい絵と、抒情的なセリフやプロットで描きます。
この記事では浅野いにおのおすすめ作品を8作紹介していきます。
目次
- はじめに:浅野いにおって?
- 目次
- おやすみプンプン
- ソラニン
- 世界の終わりと夜明け前
- 虹ヶ原ホログラフ
- ひかりのまち
- うみべの女の子
- 素晴らしい世界
- デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション
- おわりに
- あわせて読みたい
おやすみプンプン
ある日のこと、プンプンはクラスにやってきた転校生・田中愛子に一目惚れ。彼女から「もうすぐ地球は人の住めない星になる」「別の星に移住しないと人類はメツボーしてしまう」という話を聞いたプンプンは、今日出された「将来の夢」の作文に、「宇宙を研究する人になりたい」と書こうと思い立つ。だが翌朝、プンプンが起きると家の中が大変なことに…?
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まずは小手調べにおやすみプンプンから紹介。
物語の始まりはとても希望の持てるマンガです。小学生の時、転校生に恋をして、星空をみんなで眺めて、なにげないのどかな風景がすごく愛おしく感じられるんですよね。ノスタルジックな気分が全開なんです。まぁすべて浅野いにおの計算ですけれども。笑
幸福な描写というものは、壊されるためにあるんですよね。前ふりです。
主人公のプンプンがどんどん大人になっていく後半以降は、嫌悪感を抱かせるドラマがすごいです。読んでいると、登場人物たちのみじめで汚ささに自分の心がどんどん辛くなっていきます。もはや文学的とでも言った方がいいくらいに、狂った世界観が読者を圧倒します。
通勤前とかには絶対読んではいけない系のマンガです。でも、超オススメ。
ソラニン
大学を卒業して1年が過ぎ、OA機器メーカーのOL・井上芽衣子はあることを実感するようになっていた……「わたしは社会人には向いていない」。とはいえ、自分に特別な才能がないと自覚してしまった今となっては、もはや人生のレールを外れる勇気もないというのが現実。多少辛くても、頑張ってつつましく生きていくしかないのだと、彼女は今日も会社へ向かうのだったが…
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次はソラニンです。既に言及した通り、宮崎あおい主演で映画化もされた話題作ですね。
簡単に言うと、モラトリアムの瞬間を切り取った文学的マンガです。あんな風な大人にはなりたくない、と思っていた大人に近づくにつれて芽生える、あの感情がすごくリアルに伝わってきます。
ただし、現実を生きるサラリーマン戦士たちにとってはたわ言、もしくは逃げのように感じられるものが多くあって、そういう人にとってははっきり言って共感し辛いです。子どもの悩みに付き合ってられるか、という感じです。大人になったからでしょうね。
自分の人生を見つめ直したい時、本心から隠していた夢みたいなものを見つけた時。もしそんな時に読むと大人であっても胸が張り裂けそうになるでしょう。確率は別として、あの頃は、誰もが溢れんばかりの可能性だけは持っていたのですから。
自己実現に燃えている(燃えていた)けど上手く行かない人必読!
世界の終わりと夜明け前
彼女との別れ話でもめていた友人・飯田に仲介役を頼まれた「俺」。だが、待ち合わせ場所に飯田が現れず、「俺」は飯田の彼女と2人でオールナイトのボーリング場に行く。いっそのこと飲みに誘おうかも考えたが、朝イチの会議までに企画書を完成させないといけない「俺」は、ただ無駄な時間をどうでもいい会話で費やしていく…(夜明け前)。
●デビュー連作の短編「素晴らしい世界」、構想6年の渾身作「東京」を含む、心ざわめかす単行本未収録作品10編+α。描き下ろし、カラーも多数収録!!
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浅野いにおの痛々しさが爆発している短編集。感傷的すぎるのは狙っているのでしょうか。モラトリアムだけでなく、鬱々、じめじめした精神世界を語らせたら右に出るものはいないように思います。
絵は相変わらず実写みたいでずっと眺めてられます。 写真を加工したりしているんでしょうね。でもカメラは適当なやつ使っているらしいし、、、感性が独特ですなあ。ある種の天才でしょうね。
言葉で表せない読後感が味わえます。
虹ヶ原ホログラフ
こんな作品はもう描けないと思います――浅野いにお 「虹ヶ原」という土地を舞台に、小学校の同級生たちの過去と今が交差する――。子どもたちのうわさ、トンネルの中の怪物、家族の秘密、蝶の異常発生……あらゆる糸が絡み合い織り成す、新世紀黙示録。
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いにお作品の中にあって、異様な存在感を持つ傑作。
小説や映画などでもよく用いられる、多くの視点から物語を当てて、壮大な世界観を描いています。舞台は虹ヶ原というまちだけなものの、時を超えて、様々なつながりが複雑に絡み合って、全てがつながっている。よくこんなの描けたなという出来です。
本人ももう描けないと言っているらしいですが。笑
描きたい内容はともかく、仕掛けと絵が圧倒的に良い。謎は解釈次第な部分もあるとは思いますが、いにお自身では計算しきって描いているはずです。
いにおの中二的世界観が受け付けない読者も、これだけは読んだ方が良いです。
ひかりのまち
駆け出しの漫画家・野津は、自分の描く漫画に行き詰まりを感じていた。そして、締切が迫っているにも関わらず、学生時代の友人たち(全員フリーター)とついつい夜遊びしてしまう始末。そんなある日、野津は、彼女のさよちゃんと一緒に“ひかりのまち”と呼ばれる新興住宅地へ取材に訪れるが…。
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どこにでもありそうなまちで、複数のキャラクターが物語を紡ぎ出す。 素晴らしい絵でいにおの完成された世界観を味わえます。良くも悪くも驚きはなく、万人受けは決してされることがないままだろうなっていう、いにおらしい作品。
骨太なドラマが好きな人には物足りないので注意です。
うみべの女の子
恋というには強かで打算というにはあまりに脆い……浅野いにおが描く、身勝手で切実な十四歳の青春。待望の最新作!海の近くの小さな町に暮らす平凡な中学生・小梅。小梅に思いを寄せる、内向的な同級生・磯辺。思いよりも先に身体を重ねてしまった二人。秘密の時間を過ごせば過ごすほど、心の距離は遠ざかっていく――。
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正直言って私は前半、読んでられないぐらいでした。中学生が発する感情があまりにも痛々しすぎて目をそむけてしまったのです。しかし、そう思うようなことこそ、読むべきものなのかもしれないと思うんですよね。。
自らが目をそむけるところに自分の弱点や弱みが存在するのではないでしょうか。そんな引っかかりどころが満載の物語です。
恋愛の方法なんてまだ知らない絶妙なその刹那に行う性行為や、ドラッグ、えぐい暴力なんかもあるので、そういうのが見てられない人は読まないでください。
素晴らしい世界
戸川ゆり子、23歳。大学の音楽サークルで、バンドのボーカルとギターを担当している。カラッとした性格の彼女は、後輩の男の子たちに慕われる人気者。だがその頼られまくりの状況がイヤになり、あっさり大学を辞めてしまった。かといって、その後の生活のあてはない。半年後、久しぶりに出掛けた商店街のライブハウスはつぶれており、そこで偶然再会した以前のバンド仲間・藤井も金髪・ツンツンのパンクヘアーを、ごく普通の髪形にして就職活動をしていた。さらにアパートに帰ると、なんと火事で丸焼け。24万円したギターもアンプも、通帳も印鑑も全部灰になってしまった。土手に寝ころがって呆然とするゆり子。そんな彼女の前に、ゆり子を心配して探しに来た藤井がやって来た…
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どの短編にも結末部分で仕掛けがあり、カタルシスが味わえます。絵がお洒落です。
満足できない生活をしながらも、どこか自分に酔っている奇妙な主人公や、登場人物たち。変な人ばかりなんだけれども、どこかいそうと感じられるリアルな描写は、うまいなぁと唸らされます。
本作も、まっとうに生きている(生きていける)大人が読んでも恐らく何も響きません。
社会に馴染むことのできないアウトサイダーたちにオススメ。
デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション
3年前の8月31日。突如 『侵略者』の巨大な『母艦』が東京へ舞い降り、この世界は終わりを迎えるかにみえた――
その後、絶望は日常へと溶け込んでゆき、大きな円盤が空に浮かぶ世界は今日も変わらず廻り続ける。
小山門出(こやまかどで)、中川凰蘭(なかがわおうらん)、2人の女子高生は終わりを迎えなかった世界で青春時代を通行中!
『ソラニン』『おやすみプンプン』の浅野いにお最新作!2人の少女のデストピア青春日常譜、開幕。
新作はまさかのSF青春ディストピア小説でした。画力が圧倒的にすごい。人間も、風景も、素晴らしい。
女子高生二人が中心人物ですが、意味深で、印象的、だけど実は全く意味がないのかもしれない中二的な会話が読ませます。まだ連載中なのでどうなるかわかりませんが、もしかしたらがっぷり四つで壮大なテーマを描こうとしている!?かもしれません。ないか。
とにかく最新のいにおが読めます。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
まっとうな大人にはめっぽう嫌われる浅野いにおですが、アウトサイダーには寄り添ってくれます。はぐれもののの自覚がある人にオススメです!
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