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ノーベル賞に最も近かった天才作家、安部公房のおすすめ作品紹介していく

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はじめに:純文学最強世代

三島由紀夫に大江健三郎、そして安部公房。同時期に世界的な作家を三名も輩出していた、戦後の日本文学界は、世界的に見ても重要な時期です。

 

川端康成以来のノーベル文学賞を取ったのは大江健三郎ですが、安部公房も、生きていれば確実にノーベル賞を取っていたと言われるほどの作家でした。

おもしろいのが、三者三様の作風で、全くと言っていいほどタイプが違うということ。死に方、生き延び方も三者三様ですしね。


安部公房はリルケやハイデガーに傾倒し、カフカやドストエフスキーを愛読していたそされています。そのせいもあり、難解で思想的、そしてとにかく尖った作品が多いというイメージの方も多く、読まず嫌いの方も多いと思います。

もちろん暗くて不穏な世界観は共通ですが、その中にポップな小物使いや美しい描写が見られる作品も多くあります。この記事では読みやすい作品もおすすめしていますので、是非手にとってみてください。

 

目次

 

安部公房略歴&受賞歴

東京府で生まれ、少年期を満州で過ごす。高校時代からリルケとハイデッガーに傾倒していたが、戦後の復興期にさまざまな芸術運動に積極的に参加し、ルポルタージュの方法を身につけるなど作品の幅を広げ、三島由紀夫らとともに第二次戦後派の作家とされた。作品は海外でも高く評価され、30ヶ国以上で翻訳出版されている。


代表作

  • 『壁』(1951年)
  • 『砂の女』(1962年)
  • 『他人の顔』(1964年)
  • 『燃えつきた地図』(1967年)
  • 『友達』(1967年、戯曲)
  • 『箱男』(1973年)
  • 『密会』(1977年)
  • 『方舟さくら丸』(1984年)

 
主な受賞歴

  • 戦後文学賞(1950年)
  • 芥川龍之介賞(1951年)
  • 岸田演劇賞(1958年)
  • 読売文学賞(1963年・1975年)
  • 谷崎潤一郎賞(1967年)
  • フランス最優秀外国文学賞(1968年)
  • 芸術選奨(1972年)

安部公房 - Wikipedia

 

それではおすすめ作品紹介どうぞ!

  

砂の女

砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

 

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数ヶ国語に翻訳されている。読売文学賞受賞作。
https://www.amazon.co.jp/dp/410112115X

私にとって、なにはともあれ安部公房と言えば『砂の女』 。

安部公房ファンにとっては、もっと特殊で、いわゆる尖った作品の方が好まれるし、たくさんあるけれど、美しさや儚さや脆さ、醜さを、安部公房唯一無二の表現で描き切った作品は見たことがありません。

 
砂の感触がざわざわまとわりつき、さらさらとつかめない、そんな感覚が圧倒的な読書体験を生んでいます。読まず嫌いの人はまずこれを読んでみて欲しいです。超おすすめ!

 

壁 (新潮文庫)

壁 (新潮文庫)

 

ある朝、突然自分の名前を喪失してしまった男。以来彼は慣習に塗り固められた現実での存在権を失った。自らの帰属すべき場所を持たぬ彼の眼には、現実が奇怪な不条理の塊とうつる。他人との接触に支障を来たし、マネキン人形やラクダに奇妙な愛情を抱く。そして……。独特の寓意とユーモアで、孤独な人間の実存的体験を描き、その底に価値逆転の方向を探った芥川賞受賞の野心作。
https://www.amazon.co.jp/dp/4101121028

短編集のような形式を持った作品群。『壁―S・カルマ氏の犯罪 』で芥川賞を受賞します。『砂の女』よりも前に書かれた作品で、内容的にもバリバリにとんがってます。プログレです。これが読めなかったからと言って安部公房をあきらめないで欲しいです。(『砂の女』などを読んでみてください。)ただ、これが好きになった人は全部読みたくなるはず!

名前を失うと同時に世界が変わりだす、今まで信じていた価値観が全て取りさらわれる、というようなテーマを、狂気的に描かれています。寓話としても読めますし、詩的な描写が素敵です。

 

他人の顔

他人の顔 (新潮文庫)

他人の顔 (新潮文庫)

 

液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男…失われた妻の愛をとりもどすために“他人の顔”をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男の自己回復のあがき…。特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、“顔”というものに関わって生きている人間という存在の不安定さ、あいまいさを描く長編。
https://www.amazon.co.jp/dp/410112101X

安部公房が言うところの『失踪三部作』の二作目。

自分の顔というものは、特別なものです。他者と自分を分ける最も重要なものと言ってもいいかもしれません。それを喪失するとどうなるのか、顔というものはなんなのか、そう言った思想を詰め込んだ小説です。

『覗き見る』、『監視する』これらの行為は優越感があって、好まれます。ただし逆になるとどうでしょうか、一気に憎しみが沸いてきませんか? 小説のひっくり返し方が妙に気持ち良い(気持ち悪い?笑)作品です。

 

燃え尽きた地図

燃えつきた地図 (新潮文庫)

燃えつきた地図 (新潮文庫)

 

失踪者を追跡しているうちに、次々と手がかりを失い、大都会の砂漠の中で次第に自分を見失ってゆく興信所員。都会人の孤独と不安。
https://www.amazon.co.jp/dp/4101121141

安部公房が語るところの、失踪三部作のラストです。


探偵があらゆるものの意味を見失っていく、と聞くとポールオースター『シティ・オブ・グラス』を思い浮かべる方も多いと思います。

ガラスの街 (新潮文庫)

ガラスの街 (新潮文庫)

 


大都会にあって、記号のような存在になってしまいかねない、というところを突いた点では、現代にあってはもはや説明不要なほどありふれた概念かもしれません。しかしスリリングで劇的な会話を楽しめる作品でもあります。

 

勝新太郎と市原悦子、渥美清に中村玉緒とすごいメンバーで映画化もされました。

 

第四間氷期 

第四間氷期 (新潮文庫)

第四間氷期 (新潮文庫)

 

現在にとって未来とは何か?文明の行きつく先にあらわれる未来は天国か地獄か?万能の電子頭脳に平凡な中年男の未来を予言させようとしたことに端を発して事態は急転直下、つぎつぎと意外な方向へ展開してゆき、やがて機械は人類の苛酷な未来を語りだすのであった…。薔薇色の未来を盲信して現在に安住しているものを痛烈に告発し、衝撃へと投げやる異色のSF長編。
https://www.amazon.co.jp/dp/4101121052

天才作家のSF長編小説。ここから日本のSF長編が始まったとも言われています。文学的な要素はもちろんありますが、エンタメとして最も楽しみやすい一冊と言ってもよいかと思います。

独特の焦燥感や閉塞感、暗いサスペンスの空気感はもちろん作品を覆っていますが、謎解き的な要素も詰まっていて、読み手を全く飽きさせません。SFが主戦場とは言えませんが、超おすすめです。

 

カンガルー・ノート

カンガルー・ノート (新潮文庫)

カンガルー・ノート (新潮文庫)

 

ある朝突然、“かいわれ大根”が脛に自生していた男。訪れた医院で、麻酔を打たれ意識を失くした彼は、目覚めるとベッドに活り付けられていた。硫黄温泉行きを医者から宣告された彼を載せ、生命維持装置付きのベッドは、滑らかに動き出した…。坑道から運河へ、賽の河原から共同病室へ―果てなき冥府巡りの末に彼が辿り着いた先とは?急逝が惜しまれる国際的作家の最後の長編!
https://www.amazon.co.jp/dp/4101121249

遺作とも呼ばれる作品です。(『飛ぶ男』という声もあります、未完ですが。。。)

 

病を患った安部公房が『死』を 意識して書いたものです。内容的には、謎にポップで読みやすく書かれてあります。テンポよく、暗い世界だけじゃない安部公房の作品として、おすすめできます。

安部公房の遺作から読み始めるのも、ある意味悪くないかもしれません。

 

水中都市・デンドロカカリヤ 

水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)

水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)

 

ある日突然現われた父親と名のる男が、奇怪な魚に生れ変り、それまで何の変哲も無かった街が水中の世界に変ってゆく『水中都市』、コモン君が、見馴れぬ植物になる話『デンドロカカリヤ』、安部短編作品の頂点をなす表題二作に、戯曲「友達」の原形となった『闖入者』や『飢えた皮膚』など、寓意とユーモアあふれる文体の内に人間存在の不安感を浮かび上がらせた初期短編11編を収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/4101121079

初期の短編集。短編なので、さっくり読めます。どの作品もヘンテコな舞台設定だったりユーモアが効いていて、短編作家としても優れた才能を発揮します。

安部公房のSF的要素、才能がほとばしる作品集です。読みやすいのでオススメ!

 

友達

友達・棒になった男 (新潮文庫)

友達・棒になった男 (新潮文庫)

 

平凡な男の部屋に闖入して来た9人の家族。善意に満ちた笑顔で隣人愛を唱え続ける彼らの真意とは?どす黒い笑いの中から他者との関係を暴き出す傑作『友達』〈改訂版〉。日常に潜む底知れぬ裂け目を三つの奇妙なエピソードで構成した『棒になった男』。激動の幕末を生きた人物の歴史的評価に新たな光を当てた『榎本武揚』。斬新な感性で“現代”を鋭く照射する、著者の代表的戯曲3編を収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/4101121192

ここで戯曲を挟みたいと思います。

安部公房は演劇集団『安部公房スタジオ』を持っており、田中邦衛らが所属していました。 演出家としても活躍していて、舞台にも精通していました。いやぁ、多彩ですね。すごい。

『悪意はなかった』ことが他人の大切なモノを奪ってしまうことがあります。現代のネット上でも、ほとんどの炎上案件って、油を注ぐ側も、注がれる側にも大した悪意がないことが多いように思います。その割に支払われることになる対価がでかすぎるという。。。ぼうっとしてるとダメという、何とも生きにくい世の中です。受け身でいること、少数派でいることの惨めさが、まさに『どす黒い笑い』に包まれて味わえます。

小説とはひと味違った楽しみがあります。

 

箱男

箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)

 

ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。一切の帰属を捨て去り、存在証明を放棄することで彼が求め、そして得たものは? 贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換する場面(シーン)。読者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながら記述されてゆく、実験的精神溢れる書下ろし長編。
https://www.amazon.co.jp/dp/4101121168

天才が天才と呼ばれる所以はこの作品によるものが大きいのではないでしょうか。日本文学の最前衛をいっていた作品です。

一方、最前衛ということは、ポップさに乏しい面もあるということ。音楽と同じですね。西野カナ好きがいきなりピンク・フロイドを聞いてもノれないのと同じです。なので、有名な本ですが、最初の本にするのはオススメしません。

 

ちなみに名作ゲーム『メタルギア』に登場するアイテム『ダンボール』はここから来ています。小島監督、映画も小説もたくさん観て/読んでいるんでしょうね。

 

密会

密会 (新潮文庫)

密会 (新潮文庫)

 

ある朝突然、救急車で連れ去られた妻を捜すために巨大病院に入り込んだ男の物語。巨大なシステムにより、盗聴器でその行動を全て監視されていた男の迷走する姿を通して、現代都市社会の「出口のない迷路」の構造を描いている
密会 (安部公房) - Wikipedia

狂った人間ばかりがいる病院内の、性欲に染まった風景が異様な迫力を持って読者にのしかかってくる作品です。まったく『箱男』とは空気感がちがうはずの作品ですが、一緒に語られることが多い作品です。 


資本主義と性の薄利多売は切っても切り離せず、その辺りも踏まえて書かれているのだと思います。

当時でさえ、このような性の乱れがある種問題視されていたのだとすると、現代の状況なんてもう手に負えないほど性が氾濫してますよね。このままいったらどんどん人間が馬鹿になっていくんじゃないかと思うくらいに。

 

人間そっくり

人間そっくり (新潮文庫)

人間そっくり (新潮文庫)

 

《こんにちは火星人》というラジオ番組の脚本家のところへあらわれた自称・火星人――彼はいったい何者か? 異色のSF長編小説。
https://www.amazon.co.jp/dp/4101121125

最後に、個人的に偏愛している作品を。

安部公房は三島由紀夫が『会話の天才』と称するほど、会話文がとてつもなく上手いです。『人間そっくり』は多くを会話文が占め、読者を圧倒する勢いで話が進められていくのですが、これが絶妙。

『ありえない』と思う展開だらけなのですが、自分が自分であること、自分が見えている景色、感じている感覚が、本当に正しいのかは、誰にもわからないのです。そもそも正しいとはなんなのか、読者は目眩がするほど小説に感情を、存在を揺さぶられるのです。

 
とてつもなく存在感のある作品です。

 

おわりに

いかがでしたでしょうか。

難解と言われがちな安部公房ですが、一度ハマればやみつきになること間違いないです。世界的な日本人作家は数えるほどしかいません。そんな大文豪の作品を原書で読める喜びを是非味わって欲しいです。

読みやすいものから初めて、どっぷり味わうことをおすすめします!

 

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