サイケデリックに美しい変幻自在のスリーピースバンド
メンバー
- 坂本慎太郎(ギターボーカル)
- 亀川千代(ベース)
- 柴田一郎
私が彼らに出会ったのは、はねトび(はねるのトびら)でのことでした。『ゆらゆら帝国で考え中』『すべるバー』『アイツのテーマ』が番組テーマ曲として使われていました。はねトびを見ていた方は聞けば必ず思い出すと思います。
この頃のゆら帝はナンセンスな歌詞と、ジミヘンドリックスや、T-rexに影響を受けたであろう、激しめのロック曲の組み合わせで売れていっていました。はねトびで使われた曲も当時の邦楽ロック界では異質な存在でした。ただ、もっと異様で美しい曲がたくさんあります。
ギター飛び道具系のエフェクターを使いまくりのサイケデリックな音作りの曲や、ミステリアスで沈鬱な世界観の曲、ハイパーかっこいい盆踊りの曲、と、とにかく奥が深いバンドです。
解散が惜しい
はい、解散してしまったんですね。2010年3月31日に。
アルバム「空洞です」とその後のライブツアーで、我々は、はっきりとバンドが過去最高に充実した状態、完成度にあると感じました。
この3人でしか表現できない演奏と世界観に到達した、という実感と自負がありました。
しかし、完成とはまた、終わりをも意味していたようです。
解散の理由は結局、「空洞です」の先にあるものを見つけられなかったということに尽きると思います。
ゆらゆら帝国は完全に出来上がってしまったと感じました。
『完成とはまた、終わりをも意味していたようです。』 かっこよくないですか?
ちなみに、小泉今日子もカバーしてるんです。
これはこれでいいです。
話は解散のところに戻ります。解散を知った時は、相当なショックでした。長い間好きだたお気に入りのバンドが解散するのって(歌手が引退する、アイドルが卒業する)相当な衝撃です。
私は彼らのアルバムを順番に聞きました。何度も聞きました。そのうちに、彼らの言いたい事がわかったような気がしました。彼らの最後のアルバム『空洞です』は、音数をそぎ落とされたような曲が集まっています。ゆらゆら帝国は完成した、それが理解できる仕上がりでした。
現在、ギターボーカルの坂本慎太郎は作詞家として、Corneliousの小山田圭吾とSalyu(salyu×salyu『s(o)un(d)beams』)に曲を提供したり、劇場版攻殻機動隊に、これまたコーネリアス小山田圭吾の楽曲に作詞として参加したり(坂本真綾『まだうごく』など)しています。
自身もアルバムを2作発表するなど、精力的に活動しています。
そのアルバム2作を含めてランキングにしました。
ランキングポリシー
- 私独自のおすすめランキング
- 坂本慎太郎名義の2作も加えている
- ミニアルバム、ライブアルバム以外の全9作を網羅
ではランキングどうぞ
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ランキング
10位 Sweet Spot
収録曲
- 2005年世界旅行
- ザ・コミュニケーション
- ロボットでした
- タコ物語
- はて人間は?
- 貫通前
- スィートスポット
- ソフトに死んでいる
- 宇宙人の引越し
後期の名アルバム。ガレージロック時代の疾走感溢れる曲はありませんが、サイケデリックな世界観は更に深まり、このアルバムが一番極まっていると思います。誤解を恐れずに言うと、全体を通して、『バンド感』というものは全く意識されていません。ドラムとベースでグルーブを作って、ギターのカッティングで色付けし、歌を添える、サビで一気に盛り上げて、不穏なBメロやCメロに帰る、というような王道ロックからは遠く離れて、謎の音がたくさん出てきます。 『タコ物語』とかコード感ゼロですもんね。
ナンセンスな歌詞にも磨きがかかっています。
”僕は磯に住むタコだよ 君の背後にそっと近づいて ポツリ 「ラブ」 君は逃げたね 君は敏感な二枚貝だな だけど 僕は君に恋してる ゆれるワカメを分けて近づいて ポツリ 「ラブ」 君に恋してる とても繊細な僕の吸盤で 君の真珠を撫でてあげたい うそ ほんとは食べて見たい エイ
生き物さ
生き物さ
生き物さ”
まじ、普通の生活してる人からしたらなんだこの歌詞って感じでしょうね。それが正しい反応でしょう。でも、好きな人は中毒的に聞いてしまうこと間違いなしです。こんな記事を読んでいるアナタとかね。
9位 ゆらゆら帝国Ⅲ(ゆらゆらていこくさん)
収録曲
- でっかいクエスチョンマーク
- ラメのパンタロン
- 幽霊の結婚式
- 待ち人
- ゆらゆら帝国で考え中(Album Version)
- 男は不安定
- 砂のお城
- 頭異常なし
- 頭炭酸
- 少年は夢の中
ジャケットのイメージそのままのアルバムです。ポップさが突き抜けていて、それまでのナンセンスな歌詞はそのままに、疾走感溢れるロックな名曲が揃っています。
『ゆらゆら帝国で考え中』は『はねるのトびら』に使われました。
『ラメのパンタロン』なんかは、ブレイク満載でドラマー的には超楽しい曲だと思いますよ。変な話、柴田一郎よりも手数増やして遊んでみてもおもしろい。
8位 できれば愛を
収録曲
- できれば愛を-Love If Possible-
- 超人大会-Tournament of Macho Men-
- べつの星-Another Planet-
- 鬼退治-Purging The Demons-
- 動物らしく-Like an Animal-
- 死にませんが?-Feeling Immortal-
- 他人-Others-
- マヌケだね-Foolish Situation-
- ディスコって-Disco Is-
- いる-Presence-
ゆらゆら帝国解散後、ソロとして活動するギターボーカル坂本慎太郎が発売した3rdアルバム。
楽器と楽器との『間』を表現することにたゆまぬ努力を捧げ続ける坂本慎太郎ですが、今作もその試みは成功しています。惜しいのは歌詞かなと。2nd以降、ちょっと狙い過ぎ感が出てきているのが気になります。反体制・革新っていうのは音楽が持つ独特のパワーかとは思いますが、もっと幻想的な方が好きだなぁ。私は。まぁこれは好みの問題でしょうけれど。
Salyuに提供している『続きを』とかは無茶苦茶良いのでそのレベルにまで達して欲しい。。。
7位 幻とのつきあい方
収録曲
- 幽霊の気分で (Album Version) / In A Phantom Mood
- 君はそう決めた / You Just Decided
- 思い出が消えてゆく / My Memories Fade
- 仮面をはずさないで / Mask On Mask
- ずぼんとぼう / A Stick And Slacks
- かすかな希望 / A Gleam Of Hope
- 傷とともに踊る / Dancing With Pain
- 何かが違う (Album Version) / Something’s Different
- 幻とのつきあい方 / How To Live With A Phantom
- 小さいけど一人前 / Small But Enough
ソロアルバム一作目です。『君はそう決めた』のPVは坂本慎太郎本人が作成していて、それも重なって、坂本慎太郎の作品がまた聞ける、その事実のあまりの嬉しさに一日中リピートしていました。
表題曲『幻とのつきあい方』なんて、もうたまりませんよ。自分自身の創作や成果物に関してかなりストレートな気持ちを表現しているんじゃないかなぁ。結局のところ何考えてるのかはわかんないんだけど。
”自分の姿が 自分で見えない自分の心が 自分でも分からない 他人の姿が 他人に見えない他人の心が 他人とは思えない自分でも 分からない 幻を扱う 仕事には気をつけよう時に幻は姿を見せる夢や幻と向き合う 時には覚悟を決めなよ時に幻は君を飲み込む”
サウンドとしてはゆら帝時代のサイケデリックな雰囲気はないものの、サックスやフルートの金管楽器、マラカス(シェイカー?)やボンゴ、ピアノ、コーラスなどがアダルトに配置されています。『消費』される音楽ではなく、何度も聞ける、味わい深いアルバムです。
6位 ゆらゆら帝国のしびれ
収録曲
- ハラペコのガキの歌
- 時間
- 侵入
- 誰だっけ?
- 傷だらけのギター
- 夜行性の生き物3匹
- 貫通 (アルバムバージョン)
- 機械によるイジメ (インストゥルメンタル)
- 無い!!
続けて6位へ
5位 ゆらゆら帝国のめまい
収録曲
- バンドをやってる友だち
- ドア
- 恋がしたい
- 通りすぎただけの夏
- とある国
- からっぽの町
- ボタンが一つ
- 冷たいギフト
- 星になれた
同時発売の『ゆらゆら帝国のしびれ/めまい』が6位、5位です。
『ゆらゆら帝国のしびれ』は不条理な世界観とポストロックやエレクトロニカを意識した前衛的な音作りで、初めて聞いたときは『意味不明な曲が多すぎる』という印象でした。
けれど、何度も聞いてしまうのです。そのうち、『貫通』の異様なまでのエフェクトや、ハイパーかっこいい盆踊りのような曲『夜行性の生き物3匹』に中毒的にはまっていき、アルバム丸ごとの世界観にどっぷりと没入していってしまうのです。
『ゆらゆら帝国のめまい』は、センチメンタルでメランコリックなメロディー満載のアルバムです。『しびれ 』と対照的に、初めて聞いたときから『名作』というのを確信できました。最も聞いたアルバムかもしれません。
『冷たいギフト』『星になれたら』の2曲は、ゆらゆら帝国屈指の名バラード。(バラードというカテゴライズは正しくはないですが・・・)何百回と聞きました。死の恐怖感や死の美しさ、鳥肌を伴う死のエロス、凄まじい世界観を作り上げている傑作です。
『からっぽの町』の詩も素敵過ぎます。
”灰色のコンクリート 無常に響く足音 あ~俺が遠ざかってゆく 無用になったっていうことか 最果ての凍り付いた架空の町の出来事 あ~それが遠ざかってしまう 無用になったんだ全て 黒い車には 町の葬儀屋が 砂埃を巻き上げ仕事を探してる あとは誰もいない からっぽの町で 風が掃除をするように 通りを吹き抜ける”
架空のまちの出来事なのに、描写力が突き抜けてます。『空洞です』にも通じていくような作品ではないでしょうか。
4位 ナマで踊ろう
収録曲
- 未来の子守唄 (Future Lullaby)
- スーパーカルト誕生 (Birth of The Super Cult)
- めちゃくちゃ悪い男 (Extremely Bad Man)
- ナマで踊ろう (Let’s Dance Raw)
- 義務のように (Like An Obligation)
- もうやめた (Gently Disappear)
- あなたもロボットになれる (You Can Be A Robot, Too)
- やめられないなぜか (Why Can’t I Stop?)
- 好きではないけど懐かしい (Never Liked You, But Still Nostalgic)
- この世はもっと素敵なはず (This World Should Be More Wonderful)
ゆらゆら帝国解散後、坂本慎太郎が発表した2作目のアルバムです。
サウンドが超いい。特にナマで踊ろう~義務のようには、マジでエンドレスリピート。マジでChill。目をつむって聞くだけで宇宙イケる。マジ。
歌詞は前作よりもメッセージ性の強いものになっています。個人的には好みでないものもあるかなぁ。
”二千年前それは生まれ 二年後にこの世は滅びた 愛より素敵なものだと 神より役立つものだと どう見ても地獄だけれど もう戻れない元には”
『スーパーカルト誕生/坂本慎太郎』
”うちひしがれてるとき お前は来た うちのめされてるとき お前は来た やさしく寄りそうように 笑いかける 妙なもの売るために お前は来た みんな待ちこがれている 救いの手を”
『めちゃくちゃ悪い男/坂本慎太郎』
"人は集団に なると変わるんだ 欲しいものみんな持って行くのさ 何の躊躇もなく したいことみんなやっちまうのさ なにもためらわず いずれ あいつはいい奴 でも そこまでやると思ってなかった できそうにない やりそうにない”
『やめられない/坂本慎太郎』
どう捉えるかはリスナー次第ですが、かなり意思の入った歌詞だなと。
音色はかなりアダルトな編曲になっていて、フルート、サックス、電子ピアノなど、ムーディーな雰囲気で貫かれています。スチールギターの謎の使われ方にも注目です。
3位 ミーのカー
収録曲
- うそが本当に
- ズックにロック
- アーモンドのチョコレート
- 午前3時のファズギター
- ボーンズ
- 人間やめときな’99
- ハチとミツ
- 悪魔がぼくを
- 太陽のうそつき
- 星ふたつ
- 19か20
- ミーのカー
ゆらゆら帝国のロックバンドとしてのベストアルバムは これではないでしょうか。うねりまくるベースラインに太いビートのドラム、歪みまくったギター。古臭くてブルージーな音色。
うそが本当にのワクワク始まりからのズックにロックは代表曲すぎるし、アーモンドのチョコレートはキラーチューン、午前3時のファズギターは問題児だし、ボーンズは骨太、人間やめときなは病んでるときに聞くと超効く。ハチとミツはエロいし悪魔がぼくをはオールドロック、太陽のうそつきは18禁で星ふたつでやっと本気が見れて19か20は大学生とりあえず聞いとけ。
で、アルバム最後の曲『ミーのカー』は20分超え。ゆらゆらとうねるグルーブにずっと聞いていられるほど、長さなんて気になりません。
あと、全曲を通して坂本慎太郎の気だるかっこいい歌唱力が光まくってます。ドライブしながら爆音で聞きたい一枚!
2位 3×3×3(さんかけるさんかけるさん)
収録曲
- わかってほしい
- 昆虫ロック
- ユラユラウゴク
- ドックンドール
- 発光体
- つきぬけた
- アイツのテーマ
- 3×3×3
- タートルトーク
- EVIL CAR
- パーティーはやらない
コーネリアスの小山田圭吾が、この年の年間ベストアルバムに選んだことでも有名な、邦楽ロック界に衝撃を与えた、伝説的な名アルバムです。
『昆虫ロック』のイントロのギターの音色がかなり好きで、当時学生でしたが、ホント、一生聞いてました。さらに奇妙な歌詞と疾走感溢れるビート、ハイセンスなメロディラインがくせになる『発光体』、メロディラインがどこか懐かしい、はねるのトびらでも使用された『アイツのテーマ』、そして合わせて15分超えで、トリップさせるようなグルーブ感がたまらない『3×3×3』『EVIL CAR』。名曲揃いでもうお腹いっぱい。こんなのを初期からぶっ放せるなんて、ホント伝説だなぁ。
歴史に残したい名盤です。
1位 空洞です
収録曲
- おはようまだやろう
- できない
- あえて抵抗しない
- やさしい動物
- まだ生きている
- なんとなく夢を (Album Version)
- 美しい (Album Version)
- 学校へ行ってきます
- ひとりぼっちの人工衛星
- 空洞です
勢いがあって、変わった邦楽ロックを聞きたい方には『3×3×3』『ズックにロック』が最高にオススメですが、『空洞です』は、かつてロックキッズだった(が今は違う)大人向けに最高のアルバムです。
『空洞です』というアルバムタイトルからも感じられますが、かなりスカスカなサウンドです。コード感も少なく、リズムも温度差が少ないビートの繰り返しが多いのですが、幻想的なボーカルと相まって本当にバキバキにキマることができます。
そして、何と言っても聞いていただきたいのが『空洞です』
(『空洞です』のイメージは)シチュエーションとして屈強な××に襲われたとして、それでレイプされるか殺されるかどっちか選べって言われて、それならせめて優しく犯してくださいっていう・・・・。
『2009年 Quick Japan』より
何言ってるんだこの人。異次元だ。レベルが高すぎる。。。
まぁ理解可能かどうかはおいておいて、この曲で坂本慎太郎は更なる高みに上ったといっていいのではないでしょうか。彼のソロアルバムでも、明らかにこの曲と同じような手法で作られた作品もあります。
解散の理由は結局、「空洞です」の先にあるものを見つけられなかったということに尽きると思います。
ゆらゆら帝国は完全に出来上がってしまったと感じました。
完成してしまったんですね。
多くは語りませんが、是非聞いてみて欲しいです。
おわりに
ゆらゆら帝国が解散する、となった時、どうしようもない悲しみが私を襲いました。坂本慎太郎の歌詞に、曲に、私はどれだけ助けられていたのかわからなかったからです。
私は明らかに欠陥のある、悩み多き人生を歩んでいました。そこに、明らかに私に向かって歌っている歌があったのです。それがゆらゆら帝国でした。
あの頃は理解不能でしたが、改めて聞き直すと、解散理由である空洞です、が完成されてしまったということ。今となっては納得できます。
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