え、『わたしを離さないで』の作者は日本人じゃない?
TBS系列で絶賛放送中の『わたしを離さないで』の影響もあって、日本で大ブレイク中のカズオイシグロ。(もともと読書家たちには超有名人ではありましたが)
名前だけ見ると日本人ですが、日系イギリス人の作家です。長編小説『日の名残り』でイギリス最高の文学賞、1989年にブッカー賞を受賞しました。世界的に有名な作家です。
『信頼できない語り手』がスゴイ
小説には語り手があります。『僕』『私』『青豆』『ゾーイー』など、誰かの目線で物語は語られます。カズオイシグロの小説では、主人公の目線で物語が語られるのですが、この語り手が厄介です。簡単に言うとこんな感じです。
- 初めから全てを明らかにしない
- 読者をミスリードするような記述を忍ばせる
- 主人公の記憶が曖昧だったりする
結果として、血まで凍るように震えながら、じわじわ真実が明らかになっていく、凄まじい体験が味わえるのです。
是非読んでいただければと思います。
ランキングポリシー
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では早速ランキングどうぞ
7位 充たされざる者
世界的ピアニストのライダーは、あるヨーロッパの町に降り立った。「木曜の夕べ」という催しで演奏する予定のようだが、日程や演目さえ彼には定かでない。
ただ、演奏会は町の「危機」を乗り越えるための最後の望みのようで、一部市民の期待は限りなく高い。ライダーはそれとなく詳細を探るが、奇妙な相談をもちかける市民たちが次々と邪魔に入り…
カフカ的な不条理な展開をコメディとして書いた作品。読者を混乱させることを主眼に置いているのでは、というくらい不条理です。著者自身もこの作品はブラックジョーク、というほどの作品です。しかし読み進めると『あ、これ無茶苦茶おもしろいわ!』となりました。実験的ではあるんですが、読書の楽しみに溢れた傑作です。
ただし、かなり大好きな作品なのですが、初心者におすすめできるかと言われると違うので、7位にしました。カフカ『城』や安部公房『壁』『人間そっくり』、円城塔『オブザベースボール』あたりが好きな方は絶対にはまると思います。
6位 遠い山なみの光

- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,小野寺健
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/09
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故国を去り英国に住む悦子は、娘の自殺に直面し、喪失感の中で自らの来し方に想いを馳せる。戦後まもない長崎で、悦子はある母娘に出会った。
あてにならぬ男に未来を託そうとする母親と、不気味な幻影に怯える娘は、悦子の不安をかきたてた。だが、あの頃は誰もが傷つき、何とか立ち上がろうと懸命だったのだ。遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫) | カズオ イシグロ, Kazuo Ishiguro, 小野寺 健 | 本 | Amazon.co.jp
カズオ・イシグロの長編処女作です。ですが、後期作品に通じるものがあります。
私が長編の処女作として思い浮かぶのは村上春樹『風の歌を聴け』です。思えば村上春樹はあの作品からかなりの急成長を遂げていると思います。(*成長を遂げたから良い、ということではありません。私は『1973年のピンボール』含む村上春樹の初期作品を今でも愛読しています)
その点、カズオ・イシグロはこの時点でかなり高いレベルで小説の技法を使いこなしているな、と思わされます。
どうしてここまで人の心をコントロールできるのだろう、というくらいに、感情を揺さぶる技術が高いです。
5位 浮世の画家
戦時中、日本精神を鼓舞する作風で名をなした画家の小野。多くの弟子に囲まれ、大いに尊敬を集める地位にあったが、終戦を迎えたとたん周囲の目は冷たくなった。弟子や義理の息子からはそしりを受け、末娘の縁談は進まない。小野は引退し、屋敷に篭りがちに。自分の画業のせいなのか…。
『信頼出来ない語り手』の本領を発揮している作品はこれだと思います。 私たちは語り手を信頼して、いわば『味方』となって読み進めます。それは主人公が悪であっても同じです。例えば『デスノート』や『羊たちの沈黙』、など、悪人が主人公であっても、私たちは知らず知らずのうちに語り手(語り手側)の味方に回ります。
本書のテーマとしては、その『正義』そのものが揺さぶられるような展開になってます。『え、知らない間に私がおかしくなっていたのか』というような気持ちになれるでしょう。
4位 日の名残り

- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/05
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品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。
長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。
イギリスブッカー賞受賞作品。『蠅の王』のウィリアム・ゴールディングなども『通過儀礼』で受賞しています。
非常に評価も高く、素晴らしい出来です。技量的には上り詰めたな、というような印象です。ただ、英国貴族に使えた執事が語り手ということで、当然日本的要素も少ないというところで、4位としました。
3位 忘れられた巨人
アクセルとベアトリスの老夫婦は、遠い地で暮らす息子に会うため、長年暮らした村を後にする。
若い戦士、鬼に襲われた少年、老騎士……さまざまな人々に出会いながら、雨が降る荒れ野を渡り、森を抜け、謎の霧に満ちた大地を旅するふたりを待つものとは――。忘れられた巨人 | カズオ イシグロ, Kazuo Ishiguro, 土屋 政雄 | 本 | Amazon.co.jp
カズオイシグロの最新作です。『わたしを離さないで』から10年ぶりの 待望の長編ということで注目を集めました。蓋をあけてみるとこれが意外な内容でした。
竜殺しの旅に出る老夫婦が主人公で、戦士や鬼、老騎士が出てきて、怪しげな霧に包まれている、という、まるでファンタジーのような世界観です。
2015年で61歳のカズオ・イシグロですが、このような手法に出たのは純粋にすごいなと思わされました。曖昧な記憶、徐々に解き明かされる謎、など、カズオイシグロお得意の技法で物語は包みます。
色んな解釈ができると思いますが、私的には彼個人の思想がストレートに表れているんじゃないかなと思っています。読者ごとに評価がわかれていますが、そのような作品こそが良いものなんじゃないですかね。是非読んで見て下さい。
2位 わたしたちが孤児だったころ

- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,入江真佐子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/03
- メディア: 文庫
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上海の租界に暮らしていたクリストファー・バンクスは十歳で孤児となった。貿易会社勤めの父と反アヘン運動に熱心だった美しい母が相次いで謎の失踪を遂げたのだ。
ロンドンに帰され寄宿学校に学んだバンクスは、両親の行方を突き止めるために探偵を志す。やがて幾多の難事件を解決し社交界でも名声を得た彼は、戦火にまみれる上海へと舞い戻るが…わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫) | カズオ イシグロ, Kazuo Ishiguro, 入江 真佐子 | 本 | Amazon.co.jp
語り口はいつものように冷静で、静かに物語が語られています。それが物語そのもののもつ喪失感を余計に際立たせています。
喪失感がある小説、例えば村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』ポールオースター『ムーン・パレス』スコットフィツジェラルド『グレートギャッツビー』あたりがお気に入りの人は是非読んでみてください。
冒険談的要素もあり、話のアップダウンもわかりやすくておすすめできる一作です。
1位 わたしを離さないで
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。
キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく
体がガクガク震えて、涙が止まらない。
結末が予想できるのに、感動してしまう。
正直言って初めての体験だったように思います。『わたしを離さないで』は特別な一冊です。精密に練られたプロット(物語の構成)、文体、キャラクターの選択、感情の揺さぶり方、どれを取ってもパーフェクトです。
しいて言うならば、設定が少しだけ強引かなとも思えます。SFやミステリなど、正確な設定が前提にあるような小説しか読まない、という方にはそこだけ気になる方もいるようです。
けれどこの物語の本質はそこではありません。体が震えるほど感情が揺さぶられる体験をしたい方は是非読んでみてください。
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- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,入江真佐子
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